漬物のあれこれ。発酵食品とそうでない漬物~メリット・デメリットを理解してお好みで楽しんで!

実は、「漬物=発酵食品」ではない!

「漬物は発酵食品だから体に良いですよね」
というお声を頂く事があります。

確かに漬物は発酵食品ですが、現代の漬物は発酵食品だ、と言い切れません。
正しくは、漬物の中には発酵した物もある、ですね。

漬物の全てが発酵しているわけでは決してありません。
発酵している物もあるけど、そうでない物もある、という感じです。

発酵食品とは、食材を発酵させた事によって出来る食品であって、発酵過程がなければ発酵食品ではありません。

一夜漬けや浅漬けと言われる、あっさりした味付けの漬物が現代では好まれていますが、これは発酵食品とはあまり言えない物がほとんどです。保存性も一週間程度しかなく、むしろ菌の介入は極力避けたい商品です。

「善玉菌」vs.「悪玉菌」

菌の性質で面白いものがあります。
菌は現在、人間の都合上「善玉菌」「悪玉菌」と言われるように大きく二種類に分類されています。人間に有用であれば善、害であれば悪です。(厳密には善も悪もありませんが、便宜上といったところです)

発酵食品にするには、人間が食べる物ですから、もちろん善玉菌を増やします。
悪玉菌は害になりますから、当然出来るだけ繁殖させたくありません。しかし、最初から全て善玉菌だけにして増やす事は出来ずに、発酵や菌を増やす時は必ず悪玉菌も一緒に増えることになります。菌の増える環境には善も悪もないからです。

素材を無菌にして特定の善玉菌だけ培養して投入する、という事も、とんでもない施設が必要ですから通常は不可能です。

ここで人力と人知の出番で、人間がそこである事をして善玉菌が悪玉菌の成長より上回るようにするんです。それが伝統の技術であって、先人の知恵です。

そうすると善玉菌の勢いが勝って、悪玉菌が繁殖する余地がなくなります。もちろん悪玉菌や毒素を出す菌が勝ってしまうと、食べられなくなって腐敗します。

善玉菌が勝つためのキーワードは「塩」

善玉菌が勝つようにする方法は、漬物の場合一つは、塩、です。

発酵食品で無くてはならない菌である乳酸菌は「好塩菌」といって、塩でも殺菌されません。他の雑菌(こういう書き方も本当は正しくありませんが)は塩に触れると浸透圧で細胞から水分が吸いだされ、干からびて死にます。塩を使う事で、雑菌を殺し乳酸菌優位の方向にするのです。
本当に乳酸菌が都合よく好塩菌でよかったと、いつも思いますよ。

そして、上手く善玉菌で制圧された場所には他の菌は繁殖しにくくなります。満員電車でパンパンの車内を想像してもらったら良いかと。

そうすると腐敗菌や悪玉菌など保存に適さない菌が繁殖する余地がなくなりますので、発酵食品は保存が出来、長い間食べる事が出来るというわけです。

上記の菌の流れは至極単純に書いていまして、実際の菌の世界、漬物のメカニズムはもっと複雑だと思います。

一夜漬けや浅漬けは保存には向かない

発酵食品と呼べない漬物、一夜漬けや浅漬けなどはどうなっているかというと。
まだまだ菌が繁殖する余地があります。

なので、浅漬けをご賞味される場合は他の菌が繁殖する前に食べてしまわないといけませんし、作る時も菌の介入に十分注意する必要があります。
もちろん塩や酢を使って、ある程度の雑菌は死んでいるかと思いますが、乳酸発酵した漬物と違い、空気中の雑菌が後で入ったり、仕込み中に入ってしまった悪い菌が後で増える余地がまだ残されています。ですから、浅漬けは保存にはまったく向いていません。

さらに、乳酸菌などの菌も発酵した漬物に比べ相当少ないですから、浅漬けは発酵食品とは言えません。
もちろん適切な調理、温度管理をして菌の繁殖を抑えれば、消費期限内であれば問題はありません。

漬物盛り合わせ

メリット・デメリットを理解して上手な使い分けを

発酵食品ではない、と言っても浅漬けのメリットは多岐に渡ります。
まず、直ぐに出来るという事。
そして、野菜を手軽に量を食べられるという事。

浅漬けといっても、当店の場合は一度塩漬けして、中の水分を随分抜いていますから、生で食べるよりは量を食べられます。
それに、保存を目的としていませんから比較的塩分も控えめです。

この様に実は現代の漬物というのは、色々あります。
昔は冷蔵庫等が無かったのでおそらく発酵した漬物だけだったと思いますが。

京都の伝統漬物「すぐき」などは完全なる発酵食品ですが、「千枚漬」は発酵食品ではありません。しかし、その上品な旨みは目を見張るものがあります。どちらの要素も捨てがたいので、お好みで楽しんで頂けたらと思います。