一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.31 『エヴァの告白』

1921年、エリス島へ
移民のエヴァを襲う過酷な運命

原題は「THE IMMIGRANT」。
「移民」という意味である。邦題はピンとこないが、告解するシーンがあるからか?なにやら、メロドラマっぽい匂いがする。しかし、原題を知ると「ああ、なるほど」。監督が何を描きたかったか即座に分かるだろう。

1921年、ポーランドから妹とふたり、ニューヨークのエリス島にたどり着いたエヴァは、入国審査で妹と離れ離れになり、自身も入国を拒否される。途方にくれた彼女の前に現われたのは、妙に親切な男ブルーノ。彼は移民の女たちを劇場で踊らせ、売春を斡旋する男だった。しかし、彼は美しいエヴァにひと目で惹かれたのだ。厳格なカトリック教徒であるエヴァは、妹を助けるためにブルーノの言いなりになるしかなかったのだが……。

 

自分の周りに寄ってくる人は
皆なんらかの意味と学びがある

とてもキリスト教色の強い作品である。欧米の映画はキリスト教を理解していないと、よく分からない部分があるのだが、本作はエヴァが厳格なカトリックということで、神に祈り、すがり、信仰に依るシーンが多い。しかし、私が本作でとても心打たれたのも、やはりエヴァのキリスト者的な考え方である。

エヴァはブルーノという男を嫌いながら、生きていくために、ポン引きと娼婦という関係を続けていく。ブルーノはエヴァを愛しく思っているのに、体を売らせる。現実的で逞しい女と屈折した男。エヴァはブルーノという、ろくでもない男を自分に出会わせた神の采配に感謝し受け入れる。

「神よ、この心無い男を私にお与えになったことを感謝いたします」と。
そうなのだ。自分の周りに寄ってくる人々は皆、なんらかの意味と、なんらかの学びを与えるために神が用意してくれているものなのだ。だから、遠ざけることは基本的にはできない。そこから、なにかを学ばない限りは。そのことを知っているエヴァは、ラストにブルーノから衝撃の真実を知らされてもやはり彼を許していたのだと思う。自分はこの新天地、ニューヨークであまりに多くのものを学んだ、とラストショットのエヴァの顔が老成し、また心なしか彼と別れて寂しげにも見えた。

 

エヴァの凛とした強さと純情
マリオン・コティヤールの名演が光る

ニューヨークに着いてから娼婦に堕ちていくエヴァの波乱の人生が見どころだが、エヴァは少しも汚れることなく、どこまでも清く凛としてクラシックな美しさを湛えている。ブルーノの所から逃げ出して叔母夫婦の所に逃げるが、結局エリス島に送り返され収監されるシーン。エヴァは鏡に向かって自分の頬を叩き、指をピンで刺して血をにじませ、血を口紅代りにして自分を元気づける。「負けるもんか」と。
ここ、グっときましたね。私も外でへこたれそうな時はトイレの鏡で頬っぺた叩くぞ!と思いましたもんっ。

そんな気の強いエヴァだけど、マジシャンの男に「君は美しい」とプレゼントされた白バラを枯れるまで取っておいたり、やはり心は純なままなのである。このエヴァ役は監督のジェームズ・グレイがマリオン・コティヤールのために書き下ろしたそうで、彼女は名演を見せる。そしてどの映画よりも美しい。また、この移民の話は監督の祖父母の実体験から生まれたそうである。
移民の国、アメリカの礎となった人々の波乱の運命をがっつり堪能できる佳作の仕上がり。

 

『エヴァの告白』
© 2013 Wild Bunch S.A. and Worldview Entertainment Holdings LLC

2月14日(金)
大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ二条、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ西宮OS ほかで公開