「神霊の世界にもいろいろあるんです」 ~ 室生龍穴の超自然龍神 ~ 前篇

こんちゃー、望月優次こと優次ちゃんこと、僕です。
石木野日ノ姫の話が途中なのですが、急遽別の連載を挟みます。

今回は、ある龍神さんが彩楓に助け(?)を求めて来たお話です。

 

【龍神「それボクちがうし……」】

5月の末、彩楓は書斎でパソコンに向かっていた。
鑑定やブログの更新などが一段落し、SNSでもチェックしようとブラウザを開くと、突然、書斎の空気が変わった。
なにかが、来ている。
隣のデスクにいた夫、優次に声をかけようとしたが、声が出せない。
しかし、イヤな感覚ではないし、初めてでもなかった。
これは、人間からとても遠い、故に言語はかえって邪魔にしかならない、お互いに魂の奥の奥、核の部分をむき出しにしてそっと触れ合うような「かけはなれたモノ」だ。
マウスに乗せていた手が、自然と動いた。
なにかのリンクをクリックする。
開いたページには「室生龍穴」の画像があった。
「かけはなれたモノ」は、ここの龍神だ。
不器用にも繊細に触れ合う魂に、龍神の感情が流れ込んでくる。
それを受け取り、感じると、「かけはなれたモノ」は優しくそっと離れていった。
彩楓は、自分の肉体を感じた。
濁流のように、血が流れ、内蔵が動いている。
人の体は、とても煩い。
もう、喋れるだろう。
しかしまずは、さっき受け取った感情を、自分の中で吟味する。

私ではないものが、私のフリをしている。
それは不本意であり、残念であり、仄かなイラつきでありつつ、それもまあよいという達観に、少しの拗ねも入ったような、敢えて一言でいうなら、「虚しさ」。

それが、龍神から伝わってきた感情だった。
巨大な真っ白な紙に落ちた、一点の小さな小さな染み。
清浄であればあるほど、たったひとつの微細な染みが、よく目立つ。
圧倒的スケールの龍神の存在に、「虚しさ」という微小な点が染みているようだった。
彩楓は、隣のデスクにいる優次に向き直り、こう言った。

「室生龍穴に行くよ」

 

【道中】

6月のはじめ、彩楓は夫の優次の運転で室生龍穴に向かっていた。
室生龍穴に行くのはこれで二度めだ。
後部座席で、彩楓は最初の訪問を思い出していた。
2017年の1月、その時は、神社で案内係のような霊的存在がおり、「では、奥へお進みください」と言われ、山の奥の龍穴へ行った。
そこで龍神にアクセスすると、その超自然的な宇宙規模の存在感に圧倒されてしまった。
その龍神は、それまでに会ったことのある龍神とは違う次元にいた。
根源的で原始的、金銀白朱蒼、そんな色もなく、黒、もしくは無色透明の存在。
そんな龍神のスケール感から人間の文明や都市をみると、地球の表面にへばりついた薄皮のようだった。

車窓から流れる景色をみる。
民家がなくなり、田畑もなくなり、自然が濃くなる。
龍穴に近づくほどに、意識が拡大していき、肉体感覚が希薄になる。
自分の乗っている車が、単純でちっぽけなオモチャに感じられる。
車が走っている道路よりも、その下の地層、マグマの存在を強く感じてしまう。
運転席から、夫の優次が何か話しかけてくる。
それをきっかけに、意識が自分の肉体に戻っていく。
やはり、煩い。心臓はもちろん、胃や腸がうごめいている。
朝食を、食べてこなければよかった。