女性性の時代に向けて~清水友邦著「よみがえる女神」を読んで~

これまで明らかにされなかった神様のお話が満載です。著者の清水さんは2015年から2年間、女神と出会う冒険の旅を重ねてきました。

平和が長らく続いた縄文時代は母系社会でした。
弥生時代になって農耕文化が普及し始めると土地や資源を巡る戦いが始まり、男性的な競争社会に移行していきました。
古代や日本の神話に沿って数々の謎が解き明かされます!

 

これまで埋もれてきた人たちを浮かび上がらせる本

私たちが学ぶ歴史は勝者の歴史です。

表向きには、敗者や社会の中で虐げられてきた人々の思いが伝えられることはありません。スサノオ、物部氏、蝦夷、土蜘蛛、熊襲、隼人、セオリツ姫……いずれも当時の権力者によって脇に追いやられ、歴史の中に埋もれてきた人々、あるいは事実を捻じ曲げられ、悪者にされてしまった人々です。

著者は彼らがひそかに祀られている神社や彼らの墓碑を訪れ、彼らの声に耳を傾けます。
そして地方の風土記を読み解き、古事記や日本書紀から省かれた部分を丁寧になぞってくれます。
石神、蛇神、縄文土偶、諏訪大社の御柱、アラハバキ、大麻など、なんとなく知ってはいても、深い意味までは知りえなかったテーマ、あるいはなかなか触れる機会のなかったテーマについて、貴重な知識を得ることができます。

第1章のタイトルは「縄文の女神」、第2章は「自然崇拝から祖霊信仰へ」です。
第3章の「女神から男神へ」からはいよいよイザナミ・イザナギなど日本の神様が登場します。

 

世界中のどの社会も火を絶やさないようにするのは女性の仕事でした

以下、本文から印象に残った部分を抜粋あるいはまとめさせていただきます。

縄文の集落は母系の血族集落を築いていました。
家の中には炉があり女性たちは火を絶やさず守りました。
世界中のどの社会も火を絶やさないようにするのは女性の仕事でした。
種火がある炉は家の中心であり、聖なる空間でした。炉のある大きな家は族母である長老の女性が住んでいました。

女神は体内でおいしく調理された食物を惜しみなく出して食べさせようとします。
女神は殺害されてその死体からさまざまな食物が発生するのです。

母神の体に火を宿し自分の体が焼かれて死ぬことで神々を産む神話は広く分布しています。
火をおこして、火を絶やさずにすることは女性の大切な仕事で呪術的宗教行為でもありました。
縄文時代は女性がリーダーでした。

縄文遺跡からは人を殺すための武器が見つかっていません。
森の恵みを受けた縄文時代は現代のような凄惨な殺し合いをしない平和な時代でした。縄文時代は食べ物を分け合うので貧富の差がなく平等な社会を築いていました。

それは女性が中心にいる母系社会だったことも大きな要因であったでしょう。知恵のある女性は尊敬されていたので、揉め事をうまくおさめたことでしょう。

男性性(サヌキ)のサは物事に差異を設け、ヌキは能動的に外側に向かって成功を求め自己中心的に突き進み貫こうとします。
一方、女性性(アワ)のアはものの始元、あらゆるものに変遷していく受容性を、ワは調和の「和」と循環の「輪」を意味します。

 

古代においてクマは神でした

著者は80年代から世界各地の聖地を巡礼してきました。本文中ではアメリカンインディアンのホピ族、アフリカのサン族、オーストラリアのアボリジニーなど、日本以外の少数民族の風習や言い伝えも随所に散りばめられています。

古代の人たちは、すべてのものにアニマ(霊)が宿ると考え、目に見える物質世界の背後から現れてくる根源のエネルギーを神や精霊と呼んでいました。

聖地は地球と人間のつながりを思い出させてくれる場所でもあります。
地球の身体が大地であり、地球の血液が河や海、肺が森林です。

アイヌをはじめ世界中の先住民の神話には共通の神話があります。
それは、クマが若者の姿をして人間の女性と結婚し、その二人の間に生まれた子供が自分たちの祖先だというものです。
古代においてクマは神でした。

男性性が強くなりすぎると、怒りが沸き起こり、攻撃的になります。
これはエネルギーの上昇であり爆発を意味するため、彼らは火を焚いて歌い踊ったり、祭りという儀礼をおこなうことでエネルギーを発散し、部族全体の活力を取り戻したりしていました。

先住民は、神が宿る神羅万象に畏怖の念を持ち、豊かな実りをもたらす自然に祈りを捧げていました。
巨木には神が宿るという信仰があり、木を切るときは、切ってもいいか神に許しを請い、祝詞をあげていました。

そのほか日本の神話にまつわる神社がたくさん紹介されています。
普通のガイドブックには決して載っていない神社の数々……。
あらためて日本の神話を読み直し、この本を片手に聖地巡りをしたくなります。
民俗学や文化人類学好きの方、旅好きの方、パワースポット好きの方々はワクワクが止まらないかもしれません。

 

縄文の心を取り戻そう!

一方で「我々も縄文人のような自然観を取り戻さなければ、そして持続可能な文明に移行しなければ、人類は自滅して地球に生存できなくなる……」。
そうした強い危機感も強く伝わっています。そういう意味で、本書は我々現代人の自然との接し方に対する警告文書でもあります。自分たちの自然観、生き方が強く問われています。
縄文人を含む先住民の智恵、母系社会の智恵を学び、それらを私たちの生活にまで落とし込む必要がありそうです。

日本は重大な岐路に立っています。
日本人には戦いを好まない縄文人のDNAが流れています。
日本の再生、地球の再生は、日本人の心の古層にある縄文の心……自然を畏怖し、神々や精霊との関係性を大切にして自然と調和してきた心—をもう一度取り戻すことにあるのではないかと思います。

いろいろなことを考えさせられる書籍でした。軽く読めますが、非常に濃い内容が詰まっています。
帯には「これからの女性性の時代を提言する!」とあります。

1回読んで終わり、にはしたくない一冊です。