「すまぬ。ごめんなさい。もうこんなことはしないから。たったちょびっとだけでも、わしがお前を見てることをおしえたかったのじゃ」
僕は、初めて自分の意志で強く強く、セリナを抱きしめた。抱きしめたかったからだ。
ぼくは、彼女のことを、もう他人とは思えない変な気分になっていた。
「きみは、僕のお嫁さん」
そういうと、涙を流す女の子の姿がそこにはあった。
女の涙なんて絶体に人をだます道具だと僕は思っていたけれど、鼻汁だらけのそのきったならしい鼻汁セリナは
なんというかかんというか…………このまま置いておきたくないという気持ちを加速させたんだ。
なんなんだこの子。「セリナ、鼻でてるよ」「あっすまん……ってぶひゃー!」
僕はセリナのおでこに、顎を当て、手を額に当て撫でた。はじめて自分からやさしくした。
「も、いっしょよ?」
セリナは背伸びして僕に確認してきた。
「殺すなどといって、すまなかった。」
怖かったから……
「こうでもしないくと、彼女は君に多くのなことを伝えられなかったんだよ。」
そういあうあのときの老人が、横から肩をポンとして現れた。
「あっおじさん! あのときの!」
「彼女のこと、できる限り、忘れないようにな。といってもそれは無理な相談か。」
「あんたのことわすれない……」
セリナはつよくつよくテルヒコにしがみついてそう叫んだ。
遠ざかる。
すべてのことが全部遠ざかる。
どうしようもないことをきっかけに急激にー。
「さよなら、セリナ……」
テルヒコは自分が彼女から離れてゆくのを感じた。
人と神では、到底一緒にはいられないのだ。
だがどうして、彼女は自分なんかをみてきたのか。
自分はただの人間なのに、なにがそんなに。
よほど暇な神様だったのか、僕をだましたのか?
いや、そんな風ではない。でもどうして?
テルヒコは恐怖を覚えていた。
セリナ……あの子はいったい。
なみだがとまらない
きがつくと、花畑で笑顔で手を振る少女が見えた。
いつか、いつか、またあえるよね。
お前の心を惹きつけるものはすべて私は大嫌い。だってだってそんなのいやだもん。
わがままっていわれてもいいもん。
生まれ変わってでもいい
ぜったいにお前と会いたいな。
地獄でもいい。
どんだけ苦しいところでもわしは平気じゃ。
むしろ、一緒に地獄に落ちるなら、それもいいな。
そういう声がこだました。
テルヒコは涙を流しながら、
一生で一番みっともない、情けない自分をかんじながら
きがつくと、またそういう夢を見ていた。
テルヒコは実質的にこの奇妙な
2年ほどに感じられる長い間の夢を
わずかの時間のあいだにみていたのである。
急に恐ろしくなり、テルヒコは自宅に引き返した。
家に帰ろうとすると、黒い車が止まった。
大雨の中、車のガラスがあくと、老人が顔をのぞかせた
「おい、今日も良い夢を」
おじさんは真剣なまなざしでテルヒコを見た。
彼はメモを渡した。
「姫様はお前を本気で守ってきた。」
あれは、夢じゃなかったのか……
テルヒコは、自分の内側に得体のしれないもう一人の何かが潜んでいることに
この時はまだ気が付いていない。
自分を見つめるもう一つのなにか。
その数日後、テルヒコはすべての記憶が薄らいでいた。
セリナとのことも、ほとんど忘れていた。
日下部家にテルヒコはようやく、無事に帰ってきた。
夢とは無縁になったつもりでいた。
否、夢のことも、ほとんど忘れて……
「テルヒコ………………お前が儂を忘れても、わしはお前を殺してでも
取り戻したい」
強い願いの意識が地獄の底でつぼみとともに花開く。
それは永遠にも似た時間の中で奏でられる
彼女の音楽。
彼は彼女のことを、何回と、わすれている。
彼女は彼のことを今も彼の中で見続ける。
照彦は、忘れた記憶とはうらはらに
自らが異様な安心感と、計り知れない力に包まれていることを感じるようになった。
夢の中に蛇とともに、山の頂上に剣が登場するようになったのもそれからだった。
草薙の劒―!
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