今は失われた、豊穣の女神を祀った魔法都市

真っ白で巨大な神殿は、当時輝くばかりの美しさだったとされ、七不思議を選んだ人々が、「他の七不思議が見劣りする」ほどだと絶賛したほどでした。

【実在していた魔法都市】

魔法都市というと、なんだか「ファンタジーの世界のような響きを感じる」と思いますが、実は今から「2300年以上前」に、神秘的でスピリチュアルな場所として世界的に知られていた都市がありました。

その都市とは「エフェソス」、「エフェソ」や「エペソ」などとも表記されることがありますが、現在は「トルコの一部」となっており遺跡目当ての観光客が訪れる地となっています。

 

【世界七不思議の中でも最上級の神秘】

現在は観光地ですが、遙か昔には「世界七不思議」のひとつに数えられる「アルテミス神殿」が存在していました。
100年以上の歳月をかけて建設されたこの神殿は、「白大理石」のみを用いて、アテネのパルテノン神殿の2倍という巨大さで建造されました。

真っ白で巨大な神殿は、当時輝くばかりの美しさだったとされ、七不思議を選んだ人々が、「他の七不思議が見劣りする」ほどだと絶賛したほどでした。

 

【今では見られない豊穣のアルテミス】

神殿内には、「高さ15メートル」という巨大な木製のアルテミス像が安置されていましたが、こちらはちょっと変わった姿をしていました。現在ではアルテミスといえば、「美と狩猟の女神」として信仰されていますが、当時は豊穣の女神としての要素が強かったために、「太った体型に、無数の乳房を持つ」という、大地母神的な姿をしていたのです。そんな力強い姿の女神は、無数の黄金と宝石で形作られ、参拝に訪れた人たちも宝石を奉納していたとされています。

Artemis_of_Ephesus

出典:Wikipedia

 

【万能の呪文を操るエフェソスの盛衰】

さらに、このアルテミス像には「Ephesia Grammata」が刻まれていました。こちらは、「エフェソの言葉」とでもいうものであり、「光、闇、大地、歳月、真理をあらわす万能の呪文」だったのです。今では失われてしまったこの言葉は、当時使われていたギリシャ語とも異なる独特のものであり、様々な魔術や呪術の呪文として採用されていました。

力強い女神を祀り、世界最高峰の神殿を建築し、万能の呪文を使っていた、まさに魔法都市であったエフェソスですが、その文化は度重なる侵略と破壊を受け、徐々に失われていきました。最初期の神殿は放火や東ゴート族の侵入によって破壊され、何度か再建されたものの、徐々にスケールは落ちていきます。

さらにローマの支配下に入ったことで、キリスト教が流入し、多くの人が信仰をキリスト教へと変えていきます。キリスト教が公認された後は、公会議の舞台となるほどであり、現在でも『新約聖書』には「エフェソ人への手紙」という章が存在しています。キリスト教は呪術や魔術を神に背くものとして否定していたことから、かつては万能の呪文を使っていた人々も、その智恵を失っていきます。
中世になるとエフェソスに住んでいる人たちですら、かつて世界有数の神殿が建っていたことを知らないという状況になっていました。この時点では神話や伝説の一部として伝えられていた巨大神殿も、19世紀になってようやくイギリスの考古学チームによってその遺跡が発見されたことで、かつての栄光が事実だということがわかったのです。

エフェソスは2015年に「世界遺産」に登録されましたが、アルテミス神殿の遺跡にはかろうじて柱が一本残っているだけという寂しい状態になってしまっています。今では魔法都市だった面影はなく、冒頭で紹介したように、遺跡と聖母マリアの家とよばれる礼拝堂などを目的に訪れる人々のための観光地になっています。

遙か昔、巨大な白大理石が輝く中、宝石と黄金に彩られた豊穣の女神と、すでに失われた万能呪文によって守られていたエフェソス。果たして、どんな場所だったのか、想像してみるとワクワクしてきませんか?

Ancient magic city “Ephesus”.
Ephesus of the goddess and spells.

 

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