元々は不吉なものだった? 夏の風物詩「蛍」の神秘

1000年以上前から、私たちの気持ちに影響を与えてきた蛍。その神秘的な光を見ることが出来るのは、「限られた期間」だけですので、今年はそんな美しい蛍の光を見にいってみませんか?

【初夏の風物詩】

「5月下旬から6月上旬」にかけて見ることの出来る「蛍」。その「儚くも美しい輝き」は多くの人を惹きつけ、日本人が好む昆虫の中でも確実に上位に入ることでしょう。しかしながら、その美しい姿は、時として「不吉なイメージ」を伴っていたことをご存じでしょうか?

 

【蛍が恋の象徴となったのは平安時代以降】

よく蛍は、古代から恋の歌に使われており、美しさや儚さで人々に好まれていたと表現されますが、これは「平安時代以降のこと」になります。平安時代も今から1200年以上前ですので、充分昔ですが、それよりも古い時代はどちらかというと、「不吉なもの」として捉えられていたのです。

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【邪神の象徴となっていた蛍の光】

『日本書紀』には「彼地多有蛍火之光神及蠅聲邪神」という記述があります。これは、天照大神の孫である瓊瓊杵尊が、天から地上に降りてきた時に、「地上の様子を描写したもの」で、ざっくりと現代語にすると「その土地には蛍のような光を放つ神や、蝿の羽音のような騒音を発する邪神がいる」というようになります。つまり、「邪神の象徴」として蛍の光が使われていたのです。

今でこそ、蛍の光は儚いもの、美しいものとして捉えられますが、わずかな種火を守って、ほぼ暗闇の中でで過ごしていた時代には、無数の蛍が舞い踊る姿は、美しさよりも怖れを感じさせる光景だったのでしょう。また、蛍の光が通常の火と違って、「熱を持たない冷火」だったことも、「ネガティブなエネルギーをイメージさせた」のかもしれません。

 

【西洋でも蛍の光は魔王をあらわす】

蛍の発光は、「ルシフェリン」という発光物質が「ルシフェラーゼ」という酵素とマグネシウムイオンを触媒として、「アデノシン三リン酸」というエネルギーを使って引き起こされるものです。この手法は太陽や炎などの熱エネルギーを光に変換する「白熱」とは異なり、電子の刺激によって引き起こされる「ルミネッセンス」というものです。こちらは、熱がほとんど発生しないので「冷熱」などとも呼ばれます。

蛍以外にもこのような発光を行う生物は存在していますが、多くのものが「ルシフェリン」を有しています。この発光物質は「明けの明星」を意味する「ルシファー」が語源となっています。明けの明星、すなわち「金星」は、夜空で明るく輝く惑星ですが、ルシファーといえば、神に反逆した天使であり、「魔王サタン」としても知られています。

ルシファーは元々、その名前通り、天使の中でも特に「神々しく光を放っていた」ために、自分が天界で最高の存在であるとして神へ反逆した結果、地獄へと落とされてサタンに変わったという伝説が存在しています。このことから、蛍の発光をどこか不吉なものと感じていたのは、日本だけでなく、西洋でも同じだったということなのでしょう。

最初は恐れられていた蛍ですが、時代がたつにつれて神秘的な美しさに注目が集まるようになります。そして、その儚さから「恋」や「霊魂」に例えられたりするようになり、夏の風物詩とかわっていったのです。

Lightning bugs in a jar-soft focus diffusion through glass, enhanced with photoshop

 

【徐々に戻ってきた蛍】

蛍は澄んだ水にしか住めないために、高度経済成長期の「水質汚染で絶滅の危機に瀕した」こともありましたが、近年では水質浄化の試みが成功したこともあり、見ることの出来る場所も増えてきています。

1000年以上前から、私たちの気持ちに影響を与えてきた蛍。その神秘的な光を見ることが出来るのは、「限られた期間」だけですので、今年はそんな美しい蛍の光を見にいってみませんか?

Sinister insect.
Transition of the impression of the firefly.

 

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