思わぬものの力で魔を祓い延命をもたらす呪文

現代では、日常的に呪文を使うという人はあまりいないと思いますが、平安時代の貴族たちの間では、「ある呪文を唱えたり、それを書き写したものをお守りとして所持する」ということが頻繁に行われていました。

【平安時代の常識だった呪文】

世の中には、さまざまな「呪文」と呼ばれるものがあります。海外のアニメ映画などで有名な「アブラカダブラ」から、雷よけの「くわばらくわばら」まで、日常の中で使われるおまじない的な呪文はまさに無数にあるといっていいでしょう。

現代では、日常的に呪文を使うという人はあまりいないと思いますが、平安時代の貴族たちの間では、「ある呪文を唱えたり、それを書き写したものをお守りとして所持する」ということが頻繁に行われていました。

今昔物語』には、藤原常行という人が百鬼夜行に出会った際に、この呪文を身につけていたために、鬼に食べられずにすんだというエピソードが残っていますし、京都にある「東寺」には、この「呪文が刻まれた石碑が残っている」というぐらい当時はポピュラーなものでした。

 

【万能の力を持つ仏頂尊勝陀羅尼】

その呪文とは「仏頂尊勝陀羅尼(ぶっちょうそんしょうだらに)」というもの。略して「尊勝陀羅尼」などと呼ぶこともあります。
この呪文には、「百鬼を退けるだけでなく、病を癒やし、長寿安楽をもたらし、すべての災厄を除去する力」があるとされています。ほとんど、「万能の力を持つこの呪文」ですが、実はちょっと変わったものが力の源になっているのです。

その変わったものというのは、「仏様の頭」。
仏像をみたことがあるからならば、仏様の頭というのは、独特な形をしているということをご存じかと思います。「頭のてっぺんがもりあがり、大きなぽっちのようなものがついている」その姿は「頂髻相(ちょうけいそう)」もしくは「頂成肉髻相(ちょうじょうにくけいそう)」などといわれており、普通の人間とは、違って頭のてっぺんにお椀状の盛り上がりがあり、その中にはちゃんと骨も肉も詰まっているのです。

 

【仏様の頭から発する光】

これは「三十二相八十種好(さんじゅうにそうはちじっしゅこう)」といって、仏様の証拠であるいくつかの特別な特徴のひとつなのですが、いつのまにか、頭の部分だけを信仰する「仏頂崇拝」が始まり、最終的には頭の部分だけが、仏様になった「仏頂尊 」が誕生したのです。

名前からもわかるように、この仏頂尊の力を持つのが、仏頂尊勝陀羅尼ということになります。なぜ、頭が万能の力を持つのかというと、仏陀、すなわちお釈迦様の「頭頂部からは、光が放たれていた」と言われています。
その光には「すべての悪魔外道を打ち払い、罪業や障害を粉砕し、さらには人間よりも遙かに寿命の長い「天人」の寿命すら延ばす」ことができたのです。

 

【仏頂尊勝陀羅尼のエキゾチックで神秘的な響き】

この光と同じ力を持つ呪文が、いつしか光を放つ部分である頭頂部と同一視されたことで、仏頂尊勝陀羅尼が生まれました。
こちらは、仏教の呪文ではありますが、「陀羅尼」といって、日本語や中国語に翻訳したものではなく、原点である「サンスクリット語をそのまま唱える」ものとなっていますので、いかにも呪文といった、「エキゾチックで神秘的な雰囲気」があります。いったい、どんな呪文なのか? Youtubeの動画からひとつ紹介しましょう。

 

 

【今でも続く仏頂尊勝陀羅尼のパワー】

前述したよう、唱えるだけでなく、その「文字を書き写したものもお守りになる」といわれており、東寺にある石碑は、その周囲を回りながら「万病ぬぐいの布」をつかうことで、病気が治るということで、現在でも訪れる人が多いのだそうです。

なかなか長い呪文であり、覚えるのは難しいかもしれませんが、「万能の力を持つ歴史ある呪文」ですので、興味のあるかたは是非覚えて唱えるようにしてみてください。
運命が変わるかも知れませんよ?

 

Spell with the power of the universal.
Power of light that emits the Buddha’s head.

 

》前回の記事はこちら《