【自然が産み出す球体】

6月上旬に、東ヨーロッパの「ボスニア・ヘルツェゴビナ」で「球体の石」が発見されました。半径1.2メートルから1.5メートル程度ということで、なかなかの大きさですが、発見した考古学者が「人類最古の球体であり人工物」だと主張したことから話題となりました。

この球体は高濃度の鉄分を含有しており、確かに一見すると鉄球のようにも見えるほどきちんとした球体になっています。このために、人工物説が出てきたのですが、多くの専門家は「コンクリーション」という「自然現象で産まれた」という説を支持しています。

コンクリ—ションは別名「ノジュール」とも呼ばれており、化石や石などのまわりに「炭酸カルシウムが沈殿する」ことで、自然物とは思えない球形を形成するものです。この現象が起こるためには、土壌の性質が重要なのか同じ土地で似たような球体が発見されることが多くあります。

【モエラキ・ボルダーズとコスタリカの石球】

有名なのがニュージーランドで見ることの出来る「モエラキ・ボルダーズ」。こちらは、平均1メートル前後、大きい物は3メートル以上という「球体の石がゴロゴロと転がっているスポット」です。すでに割れたり、持ち帰られたりしてしまったものもありますが、現在では法律で保護されているために、巨大なものだけがなんとか残っています。

ボスニアで発見された球体も、似たようなものが、たびたび周辺で発見され、中には貴重な金属が含まれているという噂が流れたために、ほとんどが壊されてしまったということですので、人工物というよりも、コンクリーションによって自然と産まれたと考えるほうが理に叶っているでしょう。

このような自然による造形ではなく、人間が石球を作ったというケースもあります。その中でも特に有名なのが「コスタリカの石球」と呼ばれているもの。こちらは、今から「1200年〜1700年前」ぐらいに作られたものなのですが、中には真球に非常に近いものがあるという精度を持つ石球なのです。

巨大なものになると「25トンにも及ぶ」ということであり、精度はまちまちなものの、「1000年以上も昔に石を正確に加工する技術があったのかどうか？」という疑問点もあり、今なお多くの謎が秘められている石なのですが、加工に関しては根気よくやれば、当時の加工道具でも行うことが可能なことが証明されています。ただし、用途は未だにわかっておらず、「立体的な天文図だったのではないか、計算機だったのではないか」となどといわれています。

【球体の石には神が宿る】

自然物にしろ、人工物にしろ、私たち人間は球体の石にひかれてしまうようです。日本には球体の石を「玉石」と呼んで信仰するという風習が残っている地域がいくつかあります。そもそも、巨大な石は「磐座」と呼ばれ「神が降りる物」とされていましたが、玉石の場合は、「石そのものが神である」とされたようです。

熊野古道で有名な熊野地方では、神社の近隣に球状の石がおかれていることが多いのです。ひっそりと置かれているために、飾りのようなイメージがありますが、熊野からほど近い奈良県の「玉置神社」の由来によると、もっとも古い時代の「ご神体とは丸い石」だったのではないかという説もあるのです。今では、境界におくことで「悪しき者を防ぐ結界と」して使われることが多いようです。

これは丸い石を「玉石（たまいし）」と呼んだことから「玉」と「魂」が言霊的につながり、「魂を守ってくれる、もしくは身代わりとなってくれる」などの意味合いが与えられたことに由来するようです。山梨県では、玉石を「道祖神として祀る風習」が現代でも残っており、無数の丸い石が無造作に積み上げられている光景は、日本全国を探しても、山梨以外ではなかなか見ることができません。

なぜ、山梨でだけ玉石信仰が現在でも続いているのかは、はっきりとしたことがわかっていません。「水晶などが産出される土地」であることから、石を加工する技術が優れていたために、「球状の石」を作りやすかったのか、それともモエラキ・ボルダーズのように、コンクリ—ションで球状の石が産出していたことがあったのか、多くの謎がありますが、世界的に見ても「球状の石というのは、私たち人間を惹きつける」と言うことだけは確かです。

日本語の言霊のように、そこに「魂を感じさせてくれる」からなのか、それとも「球という形に完全性を感じることから神を連想する」のか、皆さんはどのように感じるでしょうか？

Mystery with spheres.
Why do people feel the mystery in the sphere?

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