土地の神様への捧げ物 地鎮祭と鎮物の秘密

家を建てる前に神社の神職さんを呼んで、土地の守護と家内安全などを祈る「地鎮祭」。最も古い記録だと、西暦690年頃に行われたそうです。

【固有名称のない恐れられる神】

日本には、「八百万の神様がいる」とされています。

つまり、私たちが生活する日本国の「どこにでも神様がいる」ということになるわけですが、天照大神や、素戔嗚尊といったような特定の名称がないにも関わらず、「深く恐れられてきたという存在」もいるのです。

 

【豊かさをもたらす山の神】

その中でも、ポピュラーなのは「山の神」。

日本は平野部が少なく「国土の7割近くが山という風土」であることもあり、そんな「山を支配する存在」には常に敬意を払っていました。山では守らなくてはいけない掟が存在していたりするのは、「山の神への怖れ」があったからなのです。

反対に、「山は私たちに恵みをもたらしてくれる場所」でもありましたので、現在でも山の神様を里へと招くというお祭りが全国各地に残っています。

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【現在でも頻繁に行われる平地の神を祀り鎮める儀式】

一方で、数少ない平野部にも神は宿っています。

さらに、「平地の神様を祀り鎮める儀式は、現在でも毎日のように行われているということをご存じでしょうか? それは「地鎮祭」と呼ばれています。読んで字のごとく、「地面」を「鎮める」ための「お祭り」です。

山の神様からは、山で生活している動物や植物などを分けて貰っているわけですが、人間が定住生活を始めた時点で、「平地の神様が司る土地を、一定期間自由に使わせて貰う必要」が出てきました。

いわば、「土地を神様から借り受けるような行為」ですので、そのために、土地の神様に色々な品物を献上していました。それが「鎮物」となります。

 

【弥生時代から続いてきた鎮物】

このような行為の起源は古く、「弥生時代の住居跡から鎮物とされる勾玉が出土した」などという報告もあります。

現在では、土地はそれぞれ所有者が国に登録されており、人間同士は「お金という対価で、その所有権をやりとりしている」わけですが、そういったシステムが定まる以前は、その「土地の神様にたいして対価を払う」というのは当然の行為だったのでしょう。

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【土地の神との対話から生まれた地鎮祭】

そのような土地の神との対話が、時代がたつにしたがって、よりシステマチックに精錬されて成立したのが地鎮祭となります。

その、最も古い記録は『日本書紀』に記された、西暦690年頃に行われたというものだとされています。この当時は、神仏習合の時代だったので、神社だけでなく、お寺でも似たようなことが行われていたといわれています。

現在では、家を建てる前に神社の神職さんを呼んで、地鎮祭を行うというのが基本になっていますが、この場合は、土地の神様だけでなく、その「地域全体を守護する神様」も招いて、土地の守護と家内安全などを祈るようになっています。

もちろん、このときにも鎮物が使われるのですが、そのラインナップはちょっと興味深く、「人」「刀」「盾」「矛」「鏡」「玉」などが基本となっているようです。

これは、一般的には土地の神様へと捧げるような意味合いとなっていますが、どう見ても、平和的なものに見えないように思えませんか? このことから、鎮物とは、土地の神様に落ち着いて貰うというよりも、元々は荒ぶる神様を「鎮圧する」ための武力だったのかもしれません。

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ちなみに、「奉納物としての鎮物を埋めるケース」もあるようで、その場合は「お米や、塩、稲などといったいわゆる、神饌と同じようなもの」が入っています。こちらの鎮物を使って行われる儀式として、有名なのは「大相撲」。