伽座守珊瑚の開運『狼語り狐語り』第6話~『眷族』の団結力が霊界へ導く~

所は現代の東京。下町の片隅を舞台に、狼眷族『グラウ』と狐眷族の『甚六』が織り成す、面白おかしな物語……。下町界隈に発生した《ぬいぐるみ失踪事件》。いよいよ佳境でございます!

「たしかに亡骸を加工して見世物のおばけを作ったなんて常識で考えれば大罪だ。でも、神様が霊界に行かせたなら眷族はもうかかわれない。昔は親より早く亡くなった子は親不孝の罪で成仏出来ないと言われた。せめてありがたい仏様の話の添え物に生まれ変わらせるという裏稼業なりの真心で男は化け物を仕立てていた。だから赦したのかもな。」

グラウが妙に納得するので部下たちの手前、甚六は気を鎮め、
「化け物霊はどうすればいい?」
話し合いの指揮を取った。

気の短い共通点を持つ稲荷狐と天狼は、人間の体感時間で2秒程で話し合いを終え、作り物の化け物から出来た化け物霊を解体し、素材ごとに一つづつ、本来行くべき霊界に送り届ける事にした。

 

狼語り……神の使いである『狼眷族』のリーディング能力とは

そのためにグラウは化け物たちの素材と霊体の過去に遡る。

「これからはじめたいな。ひどい色情因縁で重苦しい。」

苦手なモノから先に片付けようとするグラウは、長い髪で体の下半分が魚な、人間の言う《人魚》の一体に感覚を集中した。
甚六や部下の狐、見学の猫の意識に、グラウの認識したビジョンが投影される。

素材は鯉と兎、幼女。
鯉は長く生きて霊力を持つまでになった個体。大きな体が人魚の細工に都合が良くて狙われた。ながく生きて龍になるつもりが命を断たれて無念で鱗や皮に魂魄を残す。

兎は魂魄を残していない。肉は人間と犬が食べ、毛皮も利用された。こういう場合潔く魂魄は導かれ行くべき世界に昇天する。

幼女は寒空の下、寺の門前に捨て置かれた。男が見つけた時、命はなく、魂もいない。

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素材は男の手で人魚に作り上げられると、興行師に引き取られる。美形なので哀れな悲恋の身の上話を付けられ各地を巡るが、素材が素材なので乾燥や傷みが進み恐い姿になると、恋愛に効くという事にされて江戸湯島の呉服屋に高値で売られた。

引き取った店では客や働く女達が客足や恋の駆け引きを祈願する。霊力ある鯉の魂魄に、祈る女の思いが継ぎ足しされ、愛しい、恨めしい、強烈な執着の想念の塊になった。

同じ思いのモノは引き寄せられるから、利己的な略奪愛や執念の復活愛に関しては、『よく叶う』と評判になり、沢山の祈りや祈願の念が寄せられた。この『人魚』の作品本体は昭和の戦災で消失していたが、江戸半ばから150年以上女たちの願いを吸い込んだ結果、鯉の魂魄と混ざって怪異な擬似霊になって今ここいる。

そして女たちが願ったセリフを繰り返し唱える。

『私はあの人が好き。私だけがあの人を幸せにできる。どうかあの人が私だけのものになりますように。いいえ、私のモノになれ、さもなくば……。』

色恋の執念は体を持つ者には肺や喉に刺激になる。霊だが修行中な狐の何匹かは、苦しそうに咳き込みだした。

「執念深い女が念を込めて祈れば祈りのお陰じゃ無く自分の出した生霊で相手を縛り上げライバルは地獄に堕とし恋愛成就さ。よくこんなに自分の欲だけの事を祈れるんだ。しかも亭主持ちが他人の亭主に恋する願いばかりで気分悪い。」

ついグラウが私情を吐露したが、それを聞いた甚六は毛を逆立てた。

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「黙れ田舎狼。昔のまちなかの連中は親が決めた、家のためだ、身分が違うでまともに思い合う者が所帯持つわけじゃあない。田植えや村祭りで仲良くなって所帯持ちました……の山ん中とは違うんだ。好きでもない男と結婚させられて、苦労の果てに惚れた男が出来た昔の時代の女の執念、苦しみがわかるかよ。」

甚六の祠には昭和の中頃までは、この手の祈願が多かった。女たちの立場に立ち、つい感情的になった。わめいて済まなく思いグラウを見たが、狼は地面を左右に転がりまわって笑っていた。

「いなかおおかみ。イナカオオカミって言われた。ぶあっはっはー。」

グラウは甚六と目が合うと姿勢をなおし、祠の脇で固まってかしこまっている仔猫や狐たちにかまいもせず
「まあその通りだ。」
と言い、何事も無かったように仕事の続きに入った。