狐語り……《見習い眷族》から視た先輩『眷族』との御縁について
こんにちは、私は猫です。何故か記憶が定かでなくてすいません。
硬い石みたいな地面の上で目が覚めて、困っていたところをグラウさんという名の灰色の狼に誘われて、人間の暮らす街並みを通って甚六さんという名前の狐のいる祠に来ました。
甚六さんは銀色の大きな狐の姿と、神主さんみたいな衣装の人の姿を持っていて、「どちらの姿が話しやすい?」と聞いてくれたので、「人の姿がいいです。」と答えました。目が覚めるまでの記憶は無いけれど、おそらく私は人に飼われていた猫なので、人の姿に安心を感じるのだと思います。
悲しい事に私がいた時代はもうとっくに過去の時間の事で、何かに閉じ込められて長い間気を失っていたようです。
名前もまだ思い出せないでいるので、甚六さんが「ちゃ」と言う名前を付けてくれました。私の毛の柄が茶虎だったからです。そして、記憶が戻るまで甚六さんと一緒にいて良いそうです。「導かれたから。」としか教えてもらえなかったけれど、素直に一緒にいようと思いました。
狐語り……《見習い眷族》への先輩『眷族』達の気遣いについて
狼のグラウさんに見つけてもらったのに狐の甚六さんに預けられたのは、グラウさんは人に付いてて、勝手にあちこち動けないからと、甚六さんみたいに人の姿に変われないから、私が仲間の猫(猫霊)に出会った時に恐がらせないように気を遣ってくれたからでした。
あっ、私は雄猫です。グラウさんも甚六さんも雄です。私が「私」と言うのは、目覚めて最初に会話したグラウさんの持つ語彙をコピーさせてもらったからです。
どうやら私の生きていた時代はとても昔で、言葉も今の方々には通じないものだったらしいのでグラウさんの意識から写させてもらいました。他の国や星の言葉を使う時も、同じ方法で会話出来るようになると聞きました。
甚六さんの住む祠には神様が降りてくる光の柱があって、綺麗な女神様が来て、祠に住むみんなに「ちから」になる光のお菓子を下さいました。
狐語り……《見習い眷族》による、様々な発見と遠い記憶について
祠にはたくさんの狐さんがいて、女神様の周りには金龍さんや白蛇さんまでいました。女神様は上の方から降りてくる感じなのですが、たくさんの楽器が一度に鳴り響いたようなシャランシャララン、気持ちが明るくなる音が心のなかに響くから不思議です。
その音はとても昔、聞いたことのある楽器の音に似ている気がしました。
数秒なのか何分なのか、聞き惚れて時を忘れてふと気がつくと、妙なる音色も女神様も消えて無音に戻っていましたが、そのとき「くすは」という女の人の名と、神主さんのような衣装の人の姿、布に包まれた何かを地面に埋めて泣いている何人かの人の居る光景が一瞬、思い出なのか幻影なのか、心の中をかすめたのです。
わたしの記憶なのだと直感したけど、まだほかの事は思い出せない。気長に思い出すのを待つことにします。