……景色は現代の東京、甚六の住む祠に戻っていた。
「それが下谷神社なんだね。」
グラウの問いかけに甚六が答える。
「下谷神社は稲荷の大年神(オオトシノカミ)さまを祀るが ヤマトタケルさまのお社でもある。」
『おわりを みて』は
ほとんどのの観衆はわけがわからないまま、甚六の言葉に聞き入った。
「藤原秀郷が社殿を奉納したってぇのはWikipediaにも書いてあるけど、本当の経緯はヤマトタケルさまからの白羽の矢が立ったから、下谷神社に導かれ、そうやって従う意思をあらわしたんだな。」
「白羽の矢って、まさか、将門さまを討てって事?」若い狐が驚きの声を上げる。
長老かく語りき
答えたのは長老だ。
「日本武尊さまが弟さまの魂を持つ将門さまを討つように頼むわけが無い。
将門さまがどうなるかを見越してその役目、つまり将門さまを討つ役を担う秀郷が鎧を持ち帰るように導いた。『おわりを みて』はそういうことさ。
将門さまの和魂(にぎみたま)はラアムと呼ばれた日本武尊さまの双子の弟さまだから、その気配を残した鎧が必要だった。将門さまやその側近は肢体をバラバラにされて葬られている。蘇る事が無いように。和魂は腹を司る魂だから。和魂の保護のために鎧を物実(ものざね)にした。
秀郷は悪い人ではなかったんだろう。純粋だから騙されて将門を討つ側に付いた。
さっき狼が潜った時間の中で秀郷の影武者が出てきたが、その男は藤原秀郷になりきって将門さまを討った手柄で官位を貰い役職に就く。これは本物の秀郷が仕向けた事で、秀郷の影武者は年の離れた実弟だったのだよ。病気を抱えていた秀郷は自分の余生が長くは無い事に気づいていて長年自分を助けてくれた弟に花を持たせた。その分、自分の気持ちに正直に生きて死にたいと願った。
秀郷は愛馬とともに武蔵に向かい、下谷神社に報告の参拝を済ますと、西へ馬の鼻先を向けた。しかし、今の新宿の辺りで病状が悪化、薬師如来を頼って立ち寄った寺に鎧と鞘を預ける。
これはすべて日本武尊さまの導きで、その寺は日本武尊さまの鎧が収められている鎧神社との縁がある円照寺で、後にそこから鎧神社に将門さまの鎧も祀られることになる。急に将門さまの鎧を神社に収めようとしても日本武尊さまとのつながりを知らない人々に拒まれるから、望まれて神社に収められるようにしてあった。そして五、六百年の片方が転生した分の時間差はあるものの、 兄弟の鎧が揃うのだよ。」
驚嘆の真実に声も出せず祠の観衆たちが聞き入る中、
沈黙を破ったのはグラウだった。
「長老。おたくの正体は何なんだ。本当は俺たちの事をみんな知ってて、ゆるやかに過去の記憶を取り戻すように加減しているようにしか見えない。だいたいアンタはどこのお社の眷族なんだ。 」