鍼灸師が答えます。風邪が治っても咳が止まらないのは何故?

その咳、ホントに長引く風邪のせいですか?

咳が出るのは非常に苦しいものです。
咳の速さは、時速200~300kmとも言われています。
これだけのスピードが出るのですから、当然体にもかなり負担がかかります。
咳をしただけでギックリ腰になってしまう、なんていうこともあります。
また、周りの人の迷惑にもなるので、すぐに薬で止めようとする方も多いです。
大事な仕事など、仕方ない場合もありますが、むやみに咳を止めてもよいものなの
でしょうか?
風邪を引くと咳が出る事が多いですが、風邪は治ったのに咳が止まらないことが
あります。
これはなぜなのでしょうか?
今回は、私の鍼灸師としての経験から咳について述べようと思います。

 

■咳はなぜ出る?

咳は、気道内の異物を排出するために起こる体の防衛反応です。
人間の体には、体に有害なものは体外に出して体を守ろうとする働きがあります。
気管に異物が入り込むと、気道の粘膜にあるセンサーが感じ取り、その刺激を受
けて脳から横隔膜や肋間筋等の呼吸筋に異物を排出するよう指令が送られます。
声帯を閉じて胸郭内の圧を高め、声帯を開いて一気に異物を出すのです。
気管の異物を排除できるのは、咳しかありません。
咳の他にも、嘔吐(おうと)や下痢なども体の防衛反応です。

■咳が出ないとどうなるか?

食道へ入るべき食べ物や飲み物、唾液などが誤って気管の方へ
入ってしまった時に激しい咳が出ます。
これは、気管に入ってしまった物を排出するためです。
しかし、咳によって排出できない場合は、異物が気 管から肺に入り込んでしま
い、その異物の中の細菌により肺炎を起こしてしまう場合があります。
これが高齢者に多い誤嚥性(ごえんせい)肺炎と言われるものです。

 ■風邪をひいた時にも咳が出ます。

通常気道まで侵入した細菌やウイルスは、気道の粘液にからめとられ痰として自
然に体外に排出されます。
風邪の原因はウイルスですが、ウイルスに感染すると気道が炎症を起こします。
炎症を起こした気道は粘液分泌が増え、痰を自然に排出することが出来なくなり
ます。
そのため咳が出て、体のウイルスを痰と一緒に排出するのです。
このように、咳は人間の体を守るために必要不可欠なものなのです。

■風邪は治ったのに、咳が止まらない!

風邪が治っても咳だけ止まらないことがありますが、これはなぜでしょうか?
あまり知られていませんが、こういった症状に対して鍼灸やオステオパシーは効
果的なのです。
1カ月以上咳だけが残っている方でも、的確な治療をすれば数日後には止まる場
合がほとんどです。
咳が止まらない時は、多くの場合呼吸が浅くなっているようです。
そのほかにも、「何となくいつも息苦しい」、「寝不足でもないのに、日中でも
いつも眠くて仕方ない」、「よく深呼吸をしたくなる」というような症状を訴え
る方が多いです。

我々が生活している空間には、目に見えないゴミや埃などがたくさんあります。
気道がうまく拡がらないと、通常では何ともないゴミや埃などに対しても気道の
粘膜のセンサーが働いてしまい 、呼吸筋に誤った指令が送られるために咳が止ま
らなくなるのだと考えられます。
気道は、鼻からのどまでの上気道と、気管から肺までの下気道の二つにわけられ
ます。
人間は息を吸うときに上気道が狭くなり、下気道が広がります。
逆に、息を吐くときは上気道が広がり、下気道が狭くなります。
咳が止まらない方は、特に息がうまく吸えておらず、下気道が十分に拡がってい
ないのです。

■なぜうまく息が吸えなくなってしまったのでしょうか?

それは、息を吸う筋肉がうまく働いていない、要するに息を吸う筋肉が凝ってい
るからなのです。
「風邪で咳がたくさん出て、体に大きな負担がかかってしまった」、「風邪のた
めに運動不足になってしまった」、「普段から 呼吸する筋肉が凝っていた」など
がその理由です。
うまく息が吸えなくなってしまったこととその状態が持続している原因を考え、
呼吸が楽に出来るようにするために主に呼吸筋の治療を行うわけです。

自分でできる対策としては、普段からよく肩甲骨や肩の周りを良く回すと良いと
思います。
この辺りには息を吸う際に使う筋肉がありますので、そこを常に軟らかくしてお
けば、風邪は治ったのに咳だけ止まらないと言う事は起こらないでしょう。