一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.67 「幕が上がる」

シリアスな場面に出会うことが多い“オトナ”だからこそ、優れた青春映画が必要!

高校演劇に挑む少女たちの本気
大人にこそ必要な青春映画の秀作!

ライターと専門学校の講師を主な仕事としてやっているが、営業が好きなのでいろんなところに営業に行く。そこで面接があるわけだが、某所でグループディスカッションなるものがあると言われた。何人かでの面接はしたことがあるが、グループ……? それもかなりの人数みたい。ああ、やだな、なんだろう?

と不安がよぎった。そんな気持ちを抱えて観に行った本作。平田オリザの原作と本広克行監督作という情報だけで行った。だから観始めて「主演の女の子は誰なんだろう?? なんかアイドル臭がするけど、観たことない子だな~」とずーっと観終わるまで思っていた。そして観終わって「ももいろクローバーZ」ということは分かったんだけど、だいたい私、ももクロって観たことなかったので、主要な役の5人がももクロメンバーだと知って驚いた。あっ演技上手なんだ、って。それから、とっても普通っぽい女の子たちなんだって。

ストーリーは地方の高校の弱小演劇部の少女たちが、高校演劇の全国大会目指して奮闘するというもの。その過程で成長していく姿を描く。ザ・青春映画である。しかし、原作が平田オリザだけあって、とても深い。生きていくってことの根源を見え隠れさせて、少女たちの真摯な姿があぶりだされている。私は何度か胸が詰まる思いで涙させられた。

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「銀河鉄道の夜」の深さを本作で知る
人は一人だけど、一人じゃない

劇中で少女たちが演じる「銀河鉄道の夜」は平田の劇団の芝居を観たことがあるのだが、その「青年団」の芝居は正直「ふ~ん」と、もひとつだった。この宮沢賢治の童話は何度も映画やアニメ、ドラマ化されているが、なんか話はよく分からないんだよね。というのが私の感想だった。しかし、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のテーマとも言える、孤独、友情、誰かと関わることなどは、私は「幕が上がる」を観て初めて理解できた気がした。「あっ銀河鉄道の夜ってのは、こういう話なのか」と腑に落ちたのだ。

それは、主人公のさおりが、転校生の中西さんと夜の電車の駅(この駅が野ざらしの田舎の駅みたいなんだけど、近未来の駅みたいで忘れがたい)で会話するシーンで語られる。「結局この宇宙では誰もが一人なんだよ」「でも、仲間が……、いるよ」。

中西さんを演じる有安杏果の好演でこのシーンは素晴らしいものになっている。哲学的とも言えるセリフの応酬だったけど、知らず知らずのうちに私は涙していた。

結局、人は一人で生きていくものなんだけど、一人じゃないのだ。いつなんどきも。必ず、他者はいて、手は差しのべられるのだ。

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何事も楽しまなくちゃ!
優れた映画は現実の悩みに答えをくれる

本作で私が一番いいな、と思ったのは黒木華演じる吉岡先生である。彼女が少女たちをやる気にさせて演劇の指導をして全国大会へ連れていくのだが、地区予選前に「とにかく、楽しまなくちゃ」と少女たちにアドバイスする。そこで、私は「あっそうだ。楽しまなくちゃ。グループディスカッションも楽しめばいいんだ!」と答えを頂きました。今の私の心の不安に。

映画はいつも、現実の私の不安や問題に答えをくれる。

そして、素晴らしい映画はいつも私に勇気と励ましとやる気をくれる。

本作は観終わった後、俄然勇気づけられました。そうだ、私の人生の幕は私が上げるんだ! 今頃何言ってる。そんなの分かってるんだけど、時に鬱々としたり、疲れてしまったりするのが人間。あらためて、好きなことしよう! と思わせられた。

時々優れた青春映画は大人にこそ必要です。

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■2月28日(土)~ 梅田ブルク7他にて 全国ロードショー

■監督 本広克行

■原作 平田オリザ『幕が上がる』(講談社文庫刊)

■脚本 喜安浩平

■出演 百田夏菜子 玉井詩織 高城れに 有安杏果 佐々木彩夏 ムロツヨシ 清水ミチコ 黒木華 志賀廣太郎

■119分