一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.69 「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」

輝かしい功績を英国政府によって50年以上も隠された天才数学者アラン・チューリングの悲劇とは!?

天才数学者の隠された人生に号泣!
ドラマチックに生きた彼を支える初恋……

ラスト、号泣……。アラン・チューリングという天才数学者の悲惨な末路と彼の初恋……そして、薬漬けにして天才の頭脳を破壊してしまった政府の愚かしさに対する怒りか、私は滂沱の涙に浸った。と、私の隣の席の長髪の青年も涙していた。ゲイかしら? と思ったが、後で聞くと違うらしい。試写で同じところで泣いている人にはとてもシンパシーを感じる。即友達になれそうな気がする。

さて、アラン・チューリングだ。数学者で作家の藤原正彦さんが、以前出演していたNHK教育の数学者を紹介する番組でチューリングは取り上げられていて、第二次世界大戦でのドイツ軍の最強暗号〈エニグマ〉解読や、ゲイで逮捕されたことなどは知っていた。彼の暗号解読によって2年以上戦争終結が早まり、結果1400万人以上の命を救い、今のコンピューターの元を作ったのも彼である――。しかし、彼の輝かしい功績は英国政府によって50年以上も隠されてきた極秘事項だったのだ……と、本作で細かいところまで知ることが出来て驚愕してしまった。知られざるチューリングの素の姿が繊細に哀切に容赦なく語られる。

THE IMITATION GAME

 

スリリングだけど辛く切ない展開
でも、それがなんともキュンと快感

協調性皆無、自己中心的、嫌味、一匹狼、自信過剰、オタク、と絶対友達にはなりたくないタイプのチューリング。事実、何人かの仲間と暗号解析に挑むわけだが、さっそくチューリングは浮きまくって仲間はずれになってしまう。それでも彼を愛する女性も現れ、彼は彼女のアドバイスでだんだん仲間とも打ち解け始める。そしてついに暗号を解読するのだが……! この暗号解読するあたりが、実にスリリング。おおーっそういうことか!! と眼から鱗。しかししかし、「解けましたー!!」と言えないんだな、これが。極秘機密だから。

なんとも辛い仕事なんだわ。ここらあたり、とってもストレスたまる展開で見ていて苦しい。その辛さ、苦しさがラストで辛いままスパークするのが本作の特徴だろう。それは涙で浄化されるんだけど、辛く切ない。でも、そこがいいんだけど。

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同性愛者との結婚を躊躇しないジョーン
かっこいい彼女の発言に感動!

やはり、私が一番感動したのは、チューリングのパブリックスクールでの初恋だろう。何度か挿入されるその少年との優しいエピソードは美しいばかりで、チューリングにとってその恋は一生の支えだった。誰にも侵して欲しくない大切な初恋……。もうこの純愛には涙涙……うっく。

それから面白かったのが、チューリングと婚約する解読仲間のジョーンが、チューリングから別れを切り出されて「同性愛者って知ってたわ。そんなこと私は気にしない。きっと普通の男女とは違った結婚が出来るはずよ。楽しいと思うわ」みたいなことを言うのだが、そういう考え方もありだな。素晴らしいな。とちょっと感動してしまった。

中村うさぎさんの夫もゲイだが、深い絆があるようだし、別にどんな形の結婚でも本人たちが良ければいいのだよね。この時代になんて進歩的な女性か! ジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)大層魅力的でした。

チューリングを演じるベネディクト・カンバーバッチの演技も白眉だった。なんか、ゲイの天才オタク数学者ってのが、彼のルックスにピッタリで、アカデミー受賞は逃したけど、熱演は堪能させてくれる。

最近、「闇の権力」関連の本ばかり読んでいて、世の中で起こったことはほとんどが「闇の権力」の仕業だということを知って仰天しているのだが、このチューリングの一件もたぶん……と思ったら暗澹としてしまった。ま、そういうことを知ることも大事だけど、本作ではチューリングの生きた証をワクワク辿って欲しい。彼がいかに「生きた」か。そのドラマチックな生涯は、やはり魅力的なのだから。

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■監督 モルテン・ティルドゥム 

■脚本 グレアム・ムーア

■出演 ベネディクト・カンバーバッチ キーラ・ナイトレイ マシュー・グード マーク・ストロング

■115分

■3月13日(金)~全国ロードショー