人気アプリ作家・西麻布よしこが挑む! 平成二十五年訳『源氏物語』紫式部 <九>

アップルアプリ有料総合一位作品「男を虜にする極秘テクニック」を手掛けた著者が送る、意欲作連載第9回目! 名作「源氏物語(げんじ物語)」が現代に甦る……
人気アプリ作家・西麻布よしこが挑む! 平成二十五年訳『源氏物語』紫式部 <九>

源氏物語第三段 命婦帰参

命婦は、「まだ篭っておられるのですね」と、帝に同情していました。

帝は、中庭のたいへん情緒ある植え込みをご覧になり、密かに篭って四、五人の心憎い限りの美しい女房を仕えさせておられました。

この時期、帝は、亭子院が描かれた、玄宗皇帝と楊貴妃の長恨歌の絵をご覧になっていました。

伊勢や貫之に読ませた大和詞や唐土の筋書きを、口癖としていらっしゃいました。

帝は、こと細かに北の方の様子を聞かれておいでで、命婦は、同情すること密かに奏上しました。

北の方からの返事の文をご覧になりました。

「いただきものは恐れ多いもので、置き場所もございません。
このような仰せ言につけても、悲しみに暮れ心乱れているのでございます」

「荒き風ふせぎし蔭の枯れしより小萩がうへぞ静心なき」

荒れた風評でふせっていた桐壷はもういませんし、私も歳ですから、若宮が後宮に行くことを考えると心静まることがございません

このような乱れのある言葉が書かれてある文を、帝は、心が落ち着いていなかったのだろうとご覧になりながら、許されました。

帝は、とても心中を人には見せられぬと、お気持ちを静めておられましたが、ついにたえることができなくなってしまわれました。

桐壷との出会い初めからの年月のことをかき集めては、数多く思い出されたのです。

「時間もおぼつかなかったものであるが、こうしたままでも月日は経っている」と、帝は、今までのことは浅はかであったと、思い召されました。

「桐壺の父大納言の遺言に反することなく、北の方が娘の宮仕えをよくやった本意に報いるには、桐壺をそれなりの地位につかせることだと思っていた。しかし、亡くなってからでは言う甲斐なしであった」と、帝はおっしゃって、北の方をたいへん気の毒にお思いになりました。

「こうしたままでも、偶然にも若宮が生まれたからには、しかるべき地位に置くこともできる。長生きしてそのように思い念じてもらいたい」など述べられました。

帝は、北の方からの贈り物をご覧になりました。

「これが亡き人の居所を尋ねて出た証の釵(さい)であったならば良いのだが」と、唐の話を持ちだしては桐壷を思われていました。現実にはどうすることもできません。

「尋ねゆく幻もがなつてにても魂のありかをそこと知るべく」

人づてに尋ねゆく幻があれば、魂のありかを知ることができるのだろう

絵に描かれた楊貴妃の姿は、立派な絵師といえども、筆にも限りがあって、とても美貌や香りをあらわすことは難しいでしょう。

楊貴妃は、太液の芙蓉、未央宮の柳という句にあるような美貌で、唐の装いは壮麗です。

しかし、桐壺のやわらかい美貌、艶のあるお姿は、花の色や鳥の声にもたとえられない方でいらっしゃいました。

お二人の朝夕の口癖は「翼をならべ、枝を交わす」と言い、愛をお約束されていましたが、それは叶うことがありませんでした。

桐壺の命の短さについて、帝は、尽きぬ無念にさいなまれておいででした。

風の音、虫の音を聞いても、悲しみにひたっておられたのです。

(画像出典:Wikipedia)