一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.76
「サンドラの週末」

どちらを選ぶかによって「人間性」や「生き方」が出るのだと思う。 スピリチュアル的にはサンドラを選ぶ方だろう。私はお金か人かだったら人を選ぶ。しかし、分からない。人間は矛盾に満ちた生き物だから……
一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.76 <br>「サンドラの週末」

ここには人生と人間が描かれている
サンドラの奮闘に人生の光と影が見え隠れ

タルデンヌ兄弟の作品はいつも私を深いところから感動させてくれる。
前作「少年と自転車」も見終わって、人生を、人間を、見せられた気がした。もちろんその年のベストワン映画は「少年と自転車」だった。
本作も今年のベストワンである。もう決まりだ。

本作は見終わって「ああっなんて生きていくのは大変なんだ。でも、同時になんてスリリングで生きる甲斐があるものなんだ。たとえたとえうまく行かなかったとしても、得るものは十分すぎるほどあるのだ」としみじみ思わせられた。
この映画を観れたことに感謝。そしてこんな映画を作ってくれるタルデンヌ兄弟にも感謝。いつの時も本当の人生を教えてくれる芸術家は人生の師である。
何人も師がいれば、人生はそれだけ生きやすくなる。
タルデンヌ兄弟の映画は大切な私の人生の教科書である。

サンドラかボーナスか?
究極の選択は生き方の問題でもある

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さて、お話は解雇を言い渡されたサンドラが、解雇を免れるために週末奮闘するというもの。精神的な不調から休職していた彼女だったが、会社は復職前に彼女を解雇する。しかし同僚のとりなしで、社長は16人の同僚の過半数が、出たボーナスを諦めてサンドラの復職に賛成投票をすれば解雇は撤回、と言う。精神的に不安定なサンドラは「無理よ」と泣きだすが、夫のマニュや友人の励ましで16人の同僚の住所を調べ一軒一軒「ボーナスをあきらめて私に投票して」とお願いに行くのだが……。

ヨーロッパの雇用、失業は深刻で、サンドラも解雇によってたちまち生活は困窮する。しかしそれは同僚たちも同じで、あてにしていたボーナスを諦めて私を雇って、という懇願はなかなか聞き入れてもらえない。

サンドラは最初から気弱で、すぐに泣くし、薬に依存しまくりだし、なんか心もとなくて観ててイライラハラハラした。しかし、そんなサンドラを夫は根気良く優しくまた厳しく支え励まし、サンドラと共に同僚の家を回るのだ。なんて、素晴らしい夫か! と驚く。妻を信じ導く教師のような夫なのだ。
サンドラは精神的に弱く「私は必要とされない人間なんだ」と思いがちで、その弱さを彼女はこの週末の行脚で克服していく。

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美しい生き方とは?
人生は十分に闘う価値のある舞台

同僚たちの態度は様々で、ほとんどが「家も苦しいんだ。あんたを選べないよ」というもので、観てるこちらも「不利な闘い」と思えてくるのだが、そこへ泣きながら「君は僕に良くしてくれたのに何も力になれなくて……もちろん君に投票するよ」と言う同僚が現れる。そこで私はこれについて、ただの懇願と選択の道のりではないのだ、と思いだした。
ボーナスか、サンドラか、私だったらどうする?  どちらを選ぶ?
これは、どちらを選ぶかによって「人間性」や「生き方」が出るのだと思う。
スピリチュアル的にはサンドラを選ぶ方だろう。私はお金か人かだったら人を選ぶ。しかし、分からない。人間は矛盾に満ちた生き物だ。それぞれ事情がある。でも、美しい生き方をしたいと思ったら、人を選ぶ。
私は美しい生き方をしたいと思う。

サンドラの闘いに賛同してくれる同僚の態度や言葉がいちいち優しい。ヨーロッパの多様で深い人間性や哲学を感じる。
サンドラはこの週末で強くなる。ラストシーンの彼女のカッコいいことよ。
美しい選択を彼女はするのだ。

人生ってほんと面白いね。闘う価値のある舞台だ。と嬉しくなる。
私もいつだって頑張れるわ。こんなよわよわのサンドラだってここまでやれたんだもの。
働く女性たちの背中をそっと、でも確実に押してくれる作品でもある。
この原稿を書きながら、私は涙が流れてしかたなかった。
この涙の意味がこのレビューを呼んでくれる人に伝われば良いと思う。

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■監督・脚本 ジャン=ピエール&リュック・タルデンヌ

■出演 マリオン・コティヤール ファブリツィオ・ロンジョーネ
ピリ・グロワーヌ シモン・コードリ カトリーヌ・サレ
■95分

■5月23日(土)~全国ロードショー