中村うさぎさんコラム「どうせ一度の人生・・・なのか?」part.50~AIは人間の脳を凌駕するのか~

AIの進化にはめざましいものがある。しかしどんなに進化しようとも人間には及ばない領域があると考えるうさぎさん。AIには無意識がない。データという「記憶」は正確無比で、主観によって歪められたり改竄されたり変形されたりすることもないと考えます。

AIは人間の脳を凌駕するか、という議論をよく耳にする。
もちろん計算能力や処理スピードに関しては、人間の脳よりはるかにAIの方が優れているのは事実である。

さらにAIは人間独自のものと思われていた「直感」なども身につけて、プロ棋士すらもAIに勝てないという。
それはAIがプロ棋士の先の先まで対局を読むからではなく、「直感」で打っているのだそうである。
このようにAIが「直感」まで駆使するようになり、なおかつそれが人間の直感よりも正しいとなると、人間は今にすべての領域でAIに取って代わられるのではないか、という疑念を唱える人がいるのも当然だろう。

が、私は、AIがどんなに進化しても、人間には及ばない領域があると考える。
それは「創造性」や「オリジナリティ」の領域である。

と、こんなことを言うと「AIにも小説が書ける」とか「モーツァルト並みの作曲をするAIも存在する」などという反論を受けるが、それは「創造性」とは呼べない、と私は思うのである。

いくらAIがモーツァルト並みの作曲をしても、それは「モーツァルトもどき」に過ぎない。
モーツァルトの曲をすべてプログラミングして、そのパターンから作曲をさせているわけだが、その「パターン」こそがモーツァルトのオリジナリティであり、それがどこから生まれてきているかというと、モーツァルトの「無意識」だからだ。

 

コンピュータには「無意識」がない。

そして前回も書いたように、我々の「無意識」には莫大な情報が無秩序に蓄えられており、それが「創造力」の源泉となっている。

モーツァルトがあのような曲を書いたのは、彼が自分のパターンを自覚的に作り上げたせいではない。むしろ無意識の領域から得るインスピレーションに導かれて書いたのだと思う。そして、そのインスピレーションとは、彼自身が忘れ去っていた記憶の断片や抑圧していた感情が形を成したものなのだ。
つまりそれは、前回書いた「夢」と同じ作業なのだ。

おそらくインスピレーションが降りてきた時のモーツァルトはトランス状態だったと思うが、その「トランス状態」とは「夢」と同様、無意識と交信している状態なのである。
無意識下で編集された情報が「曲」という形でモーツァルトに送られてきたのだ。

そこにモーツァルト独自のパターンがあるとしたら、それは彼の無意識が作り上げたパターンだ。
そして、モーツァルトのパターンをプログラミングされたAIにはこの「無意識」がないため、モーツァルトが得ていたインスピレーションを受け取ることができない。だからAIの書いた曲は「モーツァルトもどき」を超えられず、したがってモーツァルトのオリジナリティはそこに存在しないのである。

ここで私が言っている「インスピレーション」とは、先ほどの「直感」とは似て非なるものである。
私は将棋が打てないしプロ棋士の知り合いもいないので何とも断言できないが、プロ棋士は試合中にトランス状態になって神がかりなオリジナリティを発揮したりはしない気がする(あくまで推測なので間違ってたらすみません)。

だが、作曲や小説といった分野は、この「インスピレーション」が大きな影響力を持つ。
物書きであれば誰でも体験していると思うが、「神が降りる」とか「キャラが勝手に動く」といった現象が執筆中にしばしば起きる。
自分でも予測していなかった方向に物語が転がっていき、「そうか! そういうことだったのか!」と書いている本人が驚いたりすることもたびたびある。

これが「インスピレーション」であり、この時我々は「神」ではなく「己の無意識」と交信しているのである。
私が棄ててきた多くの記憶や感覚の欠片を集めて無意識が物語を創り上げ、それを送り届けてくるのだ。
そこにはさまざまなシンボルが埋め込まれ、突飛な発想や溢れ出るイメージとして脳内に現れる。
そう、まさに「夢」と同じ現象が、目覚めている時に起こるわけである。
「夢」とは「無意識」が作り上げた物語なのだから。

 

コンピュータは夢を見ない。

AIには無意識がない。
彼らの「記憶」はデータであり、正確無比で、主観によって歪められたり改竄されたり変形されたりすることはない。
人間の脳は不正確だから、いくらでも歪められたり変形させられたりするわけだが、その「歪み」や「変形」こそが「創造力」なのだ。

コンピュータはおそらく霊を視ないだろう。

何故ならそれは人間の脳が生んだ幻影であり、我々の「創造力」の賜物だからである。

 

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