不完全なものを完全なものとする賢者の石

皆さまご存知と思われる、『ハリー・ポッターと賢者の石』。この「賢者の石」。けして架空のものではなく、現代の「科学の基礎」になりながら、消えていってしまったものとされる「錬金術」。この「金を産み出すための技術」、賢者の石は錬金術で非常に重要なポジションとされていたのです。

【映画や漫画で有名な賢者の石】

「賢者の石」というものをご存じでしょうか?
世界的なベストセラーとなった『ハリー・ポッターシリーズ』の中にも、『ハリー・ポッターと賢者の石』という作品がありますので、その名称ぐらいは聞いたことがある、という方も多いかも知れません。他にも小説やゲーム、アニメといった「架空の世界」ではたびたび登場する、有名なアイテムが賢者の石なのです。

しかしながら、こちらは架空のものではなく、中世には非常にまじめにその存在が探求されていました。現代の「科学の基礎」になりながら、消えていってしまったものとして「錬金術」があります。こちらは文字通り、「金を産み出すための技術」なのですが、賢者の石は錬金術で非常に重要なポジションとされていました。

 

【完全物質である金】

錬金術では、「金は最も完全な物質」であり、それ以外の物質を完全に洗練することで金が産み出されるはずだという思想がありました。このあたりは、現在のスピリチュアルな世界にも多大な影響を与えており、「金という物質が持つパワー」はもちろんですが、「ゴールドのエネルギーが万能に近い力がある」というのも、ある意味、錬金術思想の影響を受けているといえます。

金を産み出すために必要な素材として、「水銀」と「硫黄」が重要視されました。錬金術では、すべての物質は「水銀と硫黄から産み出される」と考えられていたのです。時代がたつにつれて、これに「塩」が加わり、さらに水銀と硫黄などを組み合わせて生まれる賢者の石という存在が登場してくるのです。

 

【いつしか精神的なものへと変わった賢者の石】

水銀と硫黄が霊妙に混ざり合った時に賢者の石が生まれるとされていたのですが、実際にはそのようなものが完成することはなかったために、錬金術師は「目に見えない要素」も必要だと考えました。それが「プネウマ」と呼ばれるものであり、賢者の石を構成する要素だとしたわけです。

その結果、賢者の石は「目に見える物質」だけでなく、目に見えないもの、すなわち「精神までも完璧なものに導く」という発想が生まれました。つまり、通常の物質に使えば金になり、人間が賢者の石を使うと、「不老不死でありながら、スピリチュアルな力にあふれ、天使とも会話できる完璧な存在になれる」ことになります。

 

【黒白赤の三段階で賢者の石は生まれる】

そんな賢者の石を作るためには、黒、白、赤という段階を踏むという説もあります。これは「黒=死」「白=復活」「赤=完成」という、キリストの生まれ変わりから影響を受けたような雰囲気もありますので、すでに化学実験よりも、精神レベルの話へと変化してきていることがわかると思います。

結局のところ、錬金術師たちは、賢者の石を物理的には作ることが出来ませんでしたが、その研究の過程で「金メッキの技術」が生まれたり、様々なものから硫黄や水銀を抽出するという実験を経て、色々な「化学物質」が発見されたりと、前述したように現代化学の祖ともいえる功績を残したわけです。

 

【エネルギーレベルで賢者の石を産み出す】

その一方で、物質的なものは無理でも、精神的な変容を産み出すためのエネルギーレベルでの賢者の石ならば作れるのではないかという発想は、かなり残っています。前述したような黒白赤という段階を魂が経験することで、自らの心が賢者の石になるとしてみたり、中国では不老不死の仙人になるために、自らの身体の中で「仙丹」「仙薬」と呼ばれるものを産み出す手法が考え出されています。

 

【現代の科学は賢者の石に近づいた】

錬金術や賢者の石が注目された時代から1000年以上がたち、まだまだ実現は遠いものの、科学は「元素変換」への手がかりをつかみつつあります。

2014年には三菱重工が非常に小規模な施設での元素変換に成功して話題になりました。この技術が確立すれば、放射性廃棄物を無害化することが可能になり、原子力が抱える大きな問題がひとつ解決することになるのです。

実用化までには、まだまだ時間はかかりそうですが、錬金術のDNAは、スピリチュアルな世界の人たちだけでなく、科学者たちにもしっかりと受け継がれて伝わっているといえるでしょう。

 

“Philosopher’s Stone” has been an important item in the alchemy .
Various types of Philosopher’s Stone.