シネマレビュー~ 『カルトの帝王』の異名を持つ映画監督デヴィッド・リンチのドキュメンタリー映画「デヴィッド・リンチ:アートライフ」

デヴィッド・リンチの頭の中にある画像が、どのように具現化され、どんな表現や流れで生まれていったのか。

伝説のテレビシリーズの続編「ツイン・ピークス The Return」(2017年)の製作総指揮・監督、『カルトの帝王』の異名を持つ鬼才デヴィッド・リンチ。
そんな彼のインタビューに基づくドキュメンタリー映画だ。

ちょうど自分が学生時代、レンタルビデオ屋でアルバイトをしていた頃は、人気のTVドラマ作品はFOXチャンネルの「X-FILES」や「ミレニアム」といったシリーズに移ってはいたけれど、まだまだ「ツイン・ピークス」のシリーズも高稼働ソフトだったし、映画版「ツイン・ピークス-ローラ・パーマー最期の7日間」や「ブルーベルベット」なども人気を集めていた印象がある。

 

デヴィッド・リンチの独特な世界観とそのヴィジュアル・センス、実験的な制作手法は、その後の映像作家タイプのモデルとなった。

映画は、リンチの独特なセンスがどのような形で磨かれていったのか、幼少期から長編デビュー作「イレイザーヘッド」までの道のりをたどる。

これより前に「リンチ1」(2007年)、「Lynch 2」が制作されていて、ドキュメンタリー3部作になっている。
監督の一人、ジョン・グエンも制作に携わっている。
3部作のラストにあたる本作は、2012年に末娘が誕生した後に、これまでの人生を語るのにちょうどよいタイミングということでオファーされたとのことだ。

リンチの作品はインディーズ、アート系というイメージが強い。

リンチはインタビュー嫌いとも言われているので、どのようなドキュメンタリー作品になっているのかとドキドキしていたが、末娘と一緒に映っているシーンがあり、アットホームで優しい雰囲気に監督本人のイメージとのギャップを感じた。

そうしたアットホームなシーンとインタビューの合間に、彼の生み出すアートがフラッシュバックのように差し込まれている。
差し込まれる絵画の数がとっても多く、それらのアート作品から不安感や葛藤が立ち上がってくる。

 

一つ一つの絵からは「陽」よりも「陰」の感覚が強く伝わってくる。

絵画や映像を通じて恐怖、苦悩といったマイナスの感情を伝えることにたけている監督だ。
デヴィッド・リンチという人の脳の中を見させてもらったようにも感じる。彼の着眼点のユニークさとグロテスクさを存分に味わうことができた。

リンチは自分の世界観を映画の中に移しこむ天才タイプなのかと思っていたが、実際には、絵画からアニメーション、そして実写へと、映画という表現方法に至るまでに長い下積み時代があったのだ。

大きな失敗に巻き込まれないと本質にたどり着くことはできない、といったニュアンスの話が一番心に残った。
人は失敗から学ぶ生き物、もちろん失敗なく過ごせればそれに越したことはないけれど、大きな失敗をしてこそ見えてくるものがある。

リンチの独特な世界観やオリジナリティーは、そうした失敗を経て生まれたものだったのだと納得した。

引っ越しの多かった幼少期の話、プロの画家だった友人のお父さんから大きなサポートを受けていた話、絵画を学ぼうとオーストリアへ渡ったのに2週間ほどでアメリカに帰ってきてしまった話、恐怖が垂れ込める意地の悪い街、フィラデルフィアでの日常……。
ファンなら既に見聞きしているエピソードばかりだろうが、まっさらな状態で見に行った者にとっては、すべてが新鮮なエピソードだった。

デヴィッド・リンチの頭の中にある画像が、どのように具現化され、どんな表現や流れで生まれていったのか。
また、どのような関心を持ち、その道に進むことになったのか、そのあたりを丁寧に伝えている。

映画は全体的に淡々としているが、中にはシュールなシーンも混じっている。
のんびりと語られながら進んでいくので、実際の時間よりも長く感じるかもしれない。
是非、監督の過去の作品にも興味を持ちながらご覧になってください。

「デヴィッド・リンチ:アートライフ」
2016年アメリカ・デンマーク/88分

監督:
ジョン・グエン、リック・バーンズ、オリヴィア・ニーアガート=ホルム
出演:デヴィッド・リンチ
©Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016

オフィシャルサイト:
http://www.uplink.co.jp/artlife/

2018年1月27日(土)より、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開

 

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