脳の不思議な話〜左半側空間無視

左目を閉じて右だけで見ても、左側を認知できなくなることはありません。左側が認知されないという脳機能の状態が原因なのです。

こんにちは! 心理士の村田です。
脳を損傷すると様々な障害が生じます。
みなさんは左半側空間無視という脳の機能障害のことをご存知でしょうか?
非常に不思議な障害なので、ご紹介したいと思います。

脳血管障害の場合、左半球損傷では失語症、右半球損傷では空間認知障害が認められます。
後者の場合、半側空間無視あるいは半側空間失認と呼ばれる症状が現れることがあります。

 

左半側空間無視の症状

左半側空間無視の患者は、自分の左側を認知できなくなってしまいます。
例えば、次のような症状を呈することがあります。
・道を歩いていても、左側にある障害物に衝突してしまう。
・左側をすり抜ける歩行者を避けることができずにぶつかってしまう。
・右折はできるが、左折ができない。
・廊下を歩いていても、左腕で左側の壁をこすってしまう。
・テーブルの上の食事も右側にある食べ物しか手をつけない。
このような症状があるにも関わらず、本人は自覚していないことが多いのです。左目を閉じて右だけで見ても、左側を認知できなくなることはありません。左側が認知されないという脳機能の状態が原因なのです。

左半側無視仕組み

 

スーパーの広告を見たとき

この患者がスーパーの広告を見たとき不思議な現象が起こります。見た商品にチェックをしてもらうようにすると、広告の右の方からチェックし始めて、左の方はほとんどチェックしないということが起こります。
また、商品名を答えてもらうと、右の方の商品は答えますが、左側に掲載された商品は答えないということになります。
一枚の紙でも左側に注意が及ばないということです。
同様に、一つのトレイに乗せた食事も、右側に載せたものは食べますが、左側のものは手をつけないという現象が起こります。

 

時計の絵を描くとき

この障害を持つ患者に時計の絵を書いてもらうと、12時から6時までは描けますが、7時から11時までは描けなくなってしまうことがあります。つまり、7時から11時までは認識できなくなってしまうのです。
この患者は、次の時計の写真のように見えているのでしょう。

時計

 

文字の音読

この患者に漢字を読んでもらうと、旁(つくり)だけを読むことがあります。
例えば、
朝 「つき」  村 「すん」  椿 「はる」  仙 「山」  借 「むかし」
細 「た、でん」  終 「ふゆ」
という具合です。「 」内が患者の回答イメージ

また、次のような言葉も下線部分のように右側しか読まなくなるということです。
左右 「みぎ」
大風 「かぜ」
携帯電話 「でんわ」
天ぷらそば 「そば」
バースデープレゼント 「ぷれぜんと」

 

左側の絵が描けない

この障害を持つ患者にスケッチを描いてもらうと、対象の右側は描きますが、左側は描かないということになります。
また、自画像は鏡を見ながら描くものですが、顔の左を描くことはありません。患者には写真のように見えているのでしょう(写真は左右逆ですが)。

eye-716008_1920

 

左半側空間無視が起こる理由

左半側空間無視は、脳の左半球の損傷ではこれらの症状は出現せず、右半球の損傷で起こります。
その理由は、
① 脳の左半球は、体の右側を認識するが、左側はほとんど認識しない。
② 脳の右半球は、体の左右両側を認識する。
従って、脳の右半球を損傷すると、体の左側を認識できなくなるということです。これに対して、脳の左半球を損傷しても、脳の右半球が体の左右両側を理解するため、右半側空間無視という症状は起こりません。ただし、ほかの障害が起こる可能性があります。

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脳機能というのは不思議なもので、まだまだ未知の分野です。

 

参考文献
「神経心理学」八木文雄 放送大学振興会

 

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