無意識に影響を与える言葉を操るエリクソン催眠

「治療に抵抗するクライエントなどいない。柔軟性にかけるセラピストがいるだけだ」

これは、20世紀最高の催眠療法家と呼ばれたミルトン・エリクソンの言葉です。「催眠療法には個人差がある」というイメージがあります。催眠には「入りやすい人もいれば、入りにくい人もいる」というのは、心理療法に詳しくない人でも、テレビなどで聞いたことがあるのではないでしょうか？　実際、プロの催眠療法家でも似たようなことをクライエントに説明する人は存在しています。しかし、そのような意見に対して、エリクソンは上記のような言葉を投げかけました。

【どんな人でも催眠にいれるエリクソン】

催眠は魔法ではなく、フィクションの世界のように「相手の意思を完全に無視して、自由自在に催眠状態にするというのは不可能」です。しかし、クライエントの状態を正確に読み取り、どんなものを欲しているのか、どのような傾向にあるのかを理解することさえできれば、「どんな人でも催眠に入れることが可能」となります。そのために、エリクソンはすべてのものを利用し、クライエント毎に異なるアプローチをすることで、子供から頑固な老人まで、「どんな問題でも解決していった」のです。

【子供を催眠状態にするためには？】

「子供を催眠状態にするというのは、古典的な催眠では難しいもの」です。子供は誘導をしっかりとイメージする力が弱く、セラピストの言葉に集中し続けることが出来ないことが多いためですが、エリクソンは子供相手でも催眠を活用することができました。

たとえば、親指のおしゃぶりがやめられない子供にたいして、エリクソンが与えたのは「ほかの指もしゃぶってあげないと不公平だよ」という言葉でした。これは、一見すると指しゃぶりを推奨しているかのように見えますが、他人から指しゃぶりを薦められたことで、恥ずかしく思ったのか、子供は親指のゆびしゃぶりすらやめてしまいました。

また、息子が階段から落ちて、上顎の骨に歯がめり込むほど酷い怪我をしたときには、怪我の状態を理解させ、さらにその痛みを肯定した上で、痛みを止めたいという気持ちを引き出し、そして痛みが止まるという暗示を与えました。さらに、痛みから意識をそらすために、出血の色についての提案をして、痛みにおびえることなく、傷口を洗うという方向に誘導していったというエピソードがあります。

どちらも一見すると催眠とは無関係のように思えるかもしれませんが、子供の心を正確に把握し、「言って欲しいこと、言って欲しくないこと」をうまく使い分けて、「無意識のレベルで心を誘導して、望む結果を導き出している」のです。これはクライエントが自覚出来ないレベルでの催眠トランス状態であり、エリクソンはこのような手法を好んで使っていました。

【自覚出来ない催眠トランス状態こそがエリクソン催眠の特徴】

催眠といえば、クライエントが誘導によって変性意識状態になったところに、暗示を与えて潜在意識に影響を与えるというイメージが強いですが、エリクソンはこのような「自覚出来る催眠トランス状態」を使うことはあまりなく、彼の治療例集である『アンコモン・セラピー』では、2割程度しか用いられておらず、残りは前述したような「自覚出来ないレベルでの催眠トランス状態を利用したもの」なのです。

この手法は、相手との会話の中で自然と催眠トランス状態へ誘導していくことから「催眠コミュニケーション」などと呼ばれ、「エリクソン催眠の特徴的な部分」とされています。エリクソンはこの技法によって、過食症から不眠症、パニック障害など心の病すべてに対応していましたが、不眠症の男性にたいして「眠れない夜は一晩中床をもっぷがけしなさい」というアドバイスを与えて治療するなど、その超人的な観察力を元にした独特な手法は、一般人が学ぶのはとても難しく、「効果的で、どんな場面でも活用出来る手法」でありながら、エリクソン催眠は習得が難しいことでも知られています。

そんなエリクソン催眠を、「誰よりも身近で体験してきた実の娘」である「ロクサーナ・エリクソン博士」から直接学べるワークショップが6月に開催されます。普通の会話を通して、相手の潜在意識に働きかけるという、まさに魔法のようなテクニックを体験し、身につけたいと思う方には、またとないチャンスですので、興味のある方は下記をご覧下さい。