「養生アルカディア 凝りを巡る哲学的考察とセルフケア」vol.4

「ウイルス」と聞くと、どうしても悪いイメージが付きまといますが、ほとんどのウィルスが無害であり、私たちの生命維持には必要なものでもあります。
「養生アルカディア 凝りを巡る哲学的考察とセルフケア」vol.4

トリニティウェブ読者の皆様、残暑見舞い申し上げます。

本当に暑かった今年の夏もようやく終わりに近づき、ツクツクボウシの鳴き声と共に時に涼しげな風も吹くようになりました。

さて、こちら記事トップに掲載した写真は、私が先日に伊勢旅行に出掛けた折りに、帰省のフェリーの甲板から撮影したものです。

見ての通り、雲の間から顔を出した天照大神が、海神ネプチューンに光りの投げキッスをしているところです。
海と山と空と風と光りの自然界が織りなすシンプルな要素のみに触れていると、人間の存在の卑小さが、いやという程に身に染みて自然の雄大さを再確認いたしました。

八百万の神を古来から信仰する我が日本では、文字通りそこかしこに神の息吹を感じます。
生命がこの地球上に誕生したのは今から38億年前。

その最初の生命誕生の場は「海であったというのが定説です。

 

「母なる海を構成する主要な生命体は実はウイルスである」

皆さんはウイルスという言葉を聞いて、最初にどんなことをイメージするでしょうか?
近年になってパンデミック騒動で話題になったエボラ出血熱ウイルスを即座に連想する方もおられるでしょうし、T細胞に感染し免疫不全の症状を引き起こすエイズウイルスや、日常的な疾患の病原であるインフルエンザウイルスなどをイメージする方も多いでしょう。

つまり、ウイルスという言葉のもつイメージは、感染症を引き起こすやっかいな病原体というもともとのラテン語の「毒」の意味に限りなく近いワルモノのイメージとして捉える方がほとんどではないかと想像します。

しかし実際に種が判明している5000種以上のウイルスのうち人間にとって病原ウイルスになるものは、わずかに数百種しかおりません。

ですから、ある意味ほとんどのウイルスは無害である、といっても過言ではないのです。
このワルモノのイメージしかなかったウイルスの汚名が返上される発見が近年になり相次いでいます。

まずセンセーショナルな例では、かのiPS細胞作成の立役者が実はウイルスであり、日常的な風邪を引き起こすアデノウイルスが、細胞の初期化に必要な3つの遺伝子を細胞のDNAに組み込むことで、iPS細胞が誕生するのですから、このような孫悟空の毛をむしって悟空の分身がワッと増える魔法のような再生医療も、ウイルスの遺伝子を運ぶ能力なくしてはできないのです。

そして、この遺伝子を運ぶベクター(運び屋)能力をもつウイルスが満ち満ちている場が、実は「海であった」のです。

海洋ウイルスに注目が集まりだしたのは、1986年頃ですからまだ新しい分野ですが、なんと海水1リットル中には普通1000億個もの海洋ウイルスが存在します!

換算するのなら海洋全体での海洋ウイルスの総数は1のあとに0が30個つく数であり、わかりやすく言えば、海洋中に棲息するすべての海洋生物の総数の15倍にして、その総重量はシロナガスクジラ約7500万頭分に相当するのです。

そう海は「母なる海」であると同時に「ウイルスなる海」であったのです。

海底までクリアに見える澄んだ海水がチャプチャプと音をたてて戯れ、愛と美の女神アフロディーテな泡がシュワシュワと沸き立っては消えてゆく。
静かな波打ち際を眺めていると、こちらの心まで洗われるような気がいたしますが、その時に見た景色の中には実に夥しいウイルスが存在しているのです。

 

「ヒトを含む地球生命種はウイルスを介してつながったひとつのドメインである」

現在地球上には約130万種の多様な生き物がいるとされます。

この地球上の生き物は分類上はバクテリア(真性細菌)アーキア(古細菌)ユーカリア(真核生物)の3つの大きなまとまりでカテゴライズされます。

このひとつひとつの大きなまとまりを「ドメイン」と呼びますが、お気づきのように、これまでウイルスはこの3つのドメインのどこにも居場所のない、別枠、もしくは欄外、または仲間はずれのやっかい者のように扱われてきました。

しかし、前節でみたとおり、ウイルスにはiPS細胞を生み出すこともできるゲノム・ベクターな非常に重要な役割があることがわかっており、また母なる海が、人間には無害なウイルスの宝庫であることが判明するにつけ、これまでのウイルスのイメージを刷新する必要性がでてきました。

またウイルスはその保有する遺伝子数も少なく、構造もシンプルで、細胞膜すら持たない性質が生命的でないことから、ウイルスは生物と非生物の中間的な存在と捉えられてきました。

しかし、近年になり発見が相次いでいるミミウイルス、マルセイユウイルス、メガウイルス、パンドラウイルスなどの巨大ウイルス群は、ほぼ生命体と呼んでもいい程に複雑な構造や大容量の遺伝子を保有していることもあり、ウイルス学の周辺は俄に巨大ウイルスの話題でホットスポットと化しています。

「ウイルス進化論」によれば、地球生命種は地球環境の変動を乗り越える能力をある種が獲得した場合、その獲得された遺伝子をウイルスが種から種へと「水平遺伝」に運ぶことで、有益な遺伝子が種間を越えて共有され、こうして多くの遺伝子を多くの種がプールし共有することで、多様な生命種の共生する地球生命界が形成されたと仮説します。

そう、われわれ地球に生きとし生ける生き物は、みなウイルスを介して手と手をつないだひとつの家族なのです。

 

「地母神ガイアが与えしものに無駄なものはひとつもない」

海洋ウイルスのその主な働きは海洋バクテリアに感染し、海洋バクテリアが海を独占しないようにそのバイオマス(生物量)をコントロールすることであり、毎日、海洋ウイルスが海洋バクテリアの20%~40%を殺すことで、海洋バクテリアの構成成分である膨大な炭素やアミノ酸や窒素が海中に放出されます。

こうして海洋ウイルスによって破壊された海洋バクテリアの細胞成分が、マリンスノーとなって海中や海底へ雪の結晶のように降り注ぐことで、海中や海底に有機成分が供給されて、深い海に住むサカナたちや深海生物の生態系が維持されます。

また海洋ウイルスによる海洋バクテリアのコントロールは、地球大気の酸素と二酸化炭素の濃度を結果としてコントロールします。

ですから、海洋ウイルスは地球の生態系を維持するためにも、海洋の健やかな養生のためにも絶対に必須な存在なのです。

ヒト細胞の6マイクロメートル幅の細胞核内に仕舞われた2メートル長のヒトゲノムの谷間には、過去に入植した夥しいウイルスの痕跡があり、ヒトゲノムの43%はウイルス由来のデータであり、このヒトゲノムの43%のウイルス由来データの9%を占めるヒト内在性レトロウイルスは、妊娠時の胎盤合成に必須なタンパク分子を合成することで、ヒトという種の存続に重大な役割を演じています。

ヒトという種はすでにウイルスの力なくして、その種を維持できません。

毒であり病原と思われてワルモノの悪のイメージしかなかったウイルスが、実は海やヒトや地球環境にとってかけがえのない、なくてはならない善なるイイモノだったのです。

 

「カオス宇宙はイザナギとイザナミの陰陽二神が二重螺旋にダンスする曼荼羅ワールド」

盛期ルネサンスの巨匠ダ・ヴィンチはこんな言葉を遺しています。

「自然の造る驚嘆すべき所産について考えを巡らす汝、人間よ、

自然の所産を破壊することが冒瀆の行いなりと思い至るのであれば、

人の生命を奪うことがこの上なき冒瀆の行いなることを思え。

生命を尊ばぬ者は、まことに生きるに値しない」

いまだにヒトとヒトが殺し合う無益な戦争をやめることができず、産業汚染による自然破壊を食い止めることもできない我が人類種。

ウイルスもバクテリアもアメーバも、植物も動物も昆虫もヒトも、活きた凝りも死んだ凝りも、海も山も空も風も光りも、星も銀河も、すべての生命階層、生命宇宙を尊重する養生セルフケアな生き方が次世紀の「養生文明」の羅針盤です。

 

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