『サルでもわかるハリィー先生のアヴァンギャルドな東洋医学講座』第一話.~人類はいつ鍼を手にしたのか?~

中国3000年の歴史とよく表現されますが、鍼治療の起源について探っていくと、実は、中国の専売特許ではなかったって、ご存じでしたか?

 

『鍼治療の起源はどこまで遡れるか?』

「あのね、トリ子さん、ちょっと、質問だけど、東洋医学の歴史というか、中国においていつ頃に東洋医学ができたか知ってる?」

「う~ん、よく中国3000年の歴史とかって言うから、3000年前くらいかしらね?」

「さすが、トリ子さん、ビンゴです! 鍼治療に使ったらしい陶器や竹や動物の骨を利用した鍼は3000年前の中国の古い遺跡から出土している。だから、中国における鍼治療の歴史は軽く3000年くらいはあるというのが定説なんだね。でもね、あくまでこれは中国に限っての鍼の歴史であって、実は中国で鍼治療が体系化される前にすでに世界中に鍼治療のような原始医療が存在していたのでは? という新説もあるんだよ」

「エエッー! なにそれ! ちょっと、待ってよ。だって、鍼治療といえば東洋医学、東洋医学と言えば中国。アタシはてっきり、鍼治療は中国の専売特許かと思ってたわ。なんなの、その世界中にあった鍼治療のような原始医療って?」

「うん、実はね、1991年にイタリアとオーストリアの国境付近のチロル地方の氷穴から男性のミイラ遺体が発見されたんだ。最初はこの男性ミイラは数十年前にその辺りで遭難した登山家の遺体だと思われてたの。でもね、その後、DNA解析をしてみたら、な! な! なんと! 5200年前頃に亡くなった40代半ばの男性のミイラだとわかったんだよ」

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「あっ、そういえば、なんか聞いたことがあるわ。たしかエッティーとか、アイスマンとか、そんな名前じゃなかったかしら?」

「正式にはチロルのアイスマンなんて呼ばれるらしい。でね、このバッドマンでも、ウルトラマンでもない、アイスマンがなぜ今の今まで一部のコアピープルにカルト的な人気があるかというとね、アイスマンの腰やふくろはぎや足首のくるぶしには、いくつかの入れ墨、タトゥーが施されていて、そのクールなタトゥーの位置の9つの箇所が現在わたしたち鍼灸師が使うツボの位置にピッタリと重なるか、6ミリ以内の位置にあり、あとの2つのタトゥーはツボとツボを結ぶ経絡上にあったんだね。つまりどうもアイスマンはツボ治療めいたことをしていたんじゃないかってことだね。実際にアイスマンをCTスキャンで診察してみたら、坐骨神経痛のような関節炎を患っていたことが推定できて、消化器にも問題を抱えていたようだよ。それでこのツボの位置にある入れ墨は、実は鍼治療をした際にツボからの出血を止めるためにすり込んだ煤(すす)の痕跡ではないか?というのが専門家が出した見解なんだね」

「ヒョエー!!! これって、メガトン級に超ビッグニュースじゃない? でも、日本じゃあ、あんまり知られていないよね、このバッドマン・ネタ(笑)じゃなかった、アイスマン・ネタ」

「うん、ハリィーはバッドマンならクリスチャン・ベール主演の最新シリーズがお気に入り、って、そうじゃない(笑)いやさ、あのイケメン俳優のブラッド・ピットの左腕にはアイスマンのボディラインをかたどったタトゥーが彫ってあるくらいだから、むしろ海外では今でもアイスマン・ネタはホットな話題なのかもね。日本だけがクール・アイスマン・ムーブメントに乗り遅れているのかも。それはともかく、アイスマン発見の衝撃は、実はハンパなく凄いってことがこれでトリ子さんにやっとわかってもらえて、今、とっても、うれしいんです!そうなんだよね。アイスマン発見によって、原始医療という人類の医の原点への視座を現世人類が獲得できたんだから、これはある意味、医学界にとってのコペルニクス的な大事件なの。でもね、なぜか、一般の人々にはほとんど知られていない。だから、今回の対話シリーズの皮切りにいっちょ、クールなアイスマンにご登場頂いたという次第です!」

「でも、だとすると、ハリィー先生、それじゃあ、人類が鍼を最初に手にしたのは、3000年前の中国でもなく、5200年前のヨーロッパのチロル地方でもなく、それよりもはるかに前だったかもしれないってこと?」

「自分は今から20万年前くらいにすでに人類は鍼を手にしていたかもしれない、なんて以前に自分のブログで書いたことがあるけど、人類が東アフリカを旅だって世界中にパンデミック・ツアーに出向いた時期が、だいたい7万年前から5万年前と言われている。だから、少なくとも5万年前頃には、初期人類は何らかの医療を身につけていただろうと、自分は推測しているんだね。だって、それなりに怪我や病気の処置ができなければ、いくら原始的な人類だって、長旅なんかできないからね」

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「なんだか『サルでもわかる』シリーズのはずが、いきなりレベルが高過ぎじゃない、先生?」

「なにせ、アヴァンギャルドなんで(笑)ひとつ、こんな感じで気楽に対話形式で、東洋医学についてなるべくわかりやすく語ってみます。トリ子さん、トリニティウェブ読者の皆様、どうぞよろしくお付き合いの程お願い申し上げます」

「は~い、東洋医学フリークのトリ子には、ワクワク、ドキドキのとっても嬉しいシリーズのスタートです!こちら、トリ子もよろしくね!」

 

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