カオスからコスモスを引き出す実践的養生法論~その九・凝りに潜む竜とは?

凝りを生理学的に乳酸と断定することは、 現代科学の仕事だ。

「凝りはイイモノ」

凝りと聞くと、皆さんは何をイメージされますか?

真っ先に思い浮かぶのが肩凝りや首凝りではないでしょうか。

そしてそれは決して良いイメージではなく、

凝りがあることは悪い、と固定概念で思っているはずです。

たしかに凝りがあるとその周囲の筋肉や組織の可動性が

落ちて、関節が動かしにくくなり、

また動かした時に痛みなどが出ます。

このことから凝りがあるのは良くないことで、

実際に凝りが取れると随分と動かすのが楽になるのは、

誰もが経験するところです。

ではその人体の可動性に悪さをする凝りとは、

生理学的に何なのでしょうか?

じつは凝りが生理学的に何なのかは、

まだよくわかっておりません。

これまでのここ100年間の生理学においては、

凝りは細胞内に溜まった乳酸である、とされてきました。

しかし近年の研究により、ハードな筋トレなどをして

速筋で生成された乳酸はその後30分間から1時間で

速やかに乳酸トランスポーターで心筋や遅筋に運ばれて、

新たなエネルギー源として活用されることがわかりました。

つまり凝りの原因とされた乳酸は決してワルモノではなく、

エネルギー源、そうイイモノだったのです。

 

「凝りと向き合う」

私は鍼灸指圧師です。

ですから日常的な臨床において、

必ず凝りを診ます。

言わば凝り診断のプロです。

もうかれこれ25年以上、凝り診断の日々を

送ってきました。

不思議なもので、冒頭の最新の生理学における

乳酸の必要性を知る前から、

私には凝りが味方である、という実感がありました。

なぜそんな風に感じていたかというと、

凝りに指を触れていると、

凝りから何かが動き出すのがわかったからです。

凝りに指圧をして凝りにジッと指を当てる。

凝りのほうでまだまだ押していてくれと言ってくる。

だから凝りがもういいよ、と言うまで、

ひたすら押す。

押す時間は決まっていない。

1回、1回、ぜんぶ違う。

凝りと私が一対一で向き合う。

そうしてじっくりと対決していると、

やがて凝りの中から何かが目覚める。

 

「凝りに潜む竜」

凝りの中から目覚めたものは、

いったい何なのか?

その凝りの中から目覚めたものの動きは、

トグロを巻いていた小さな竜が

動き出すさまにそっくり。

押している指先にコツンと向こうから

ひとつき喰らわして竜が挨拶をすると、

やおら凝っていたその場から移動を始め、

やがて身体中を駆け巡り、

最後には手足や頭から体外へと飛翔する。

凝りを治療しているといつも

こんな光景が展開する。

凝りには竜が潜んでいるのだ。

この凝りに潜む竜を治療でうまくおびき出す

ことができれば、治療は大成功する。

そんな凝り竜が踊る治療ができた時は、

治療後の患者の好転反応も目覚ましい。

凝り竜は生理学的には乳酸かもしれない。

その乳酸が溶けだして、

乳酸トランスポーターで運ばれて、

新たなエネルギー源として活用される時、

私にはそれが竜の躍動に見えるのだろうか?

月のウサギはクレーターだった。

だが月にウサギがいて、

餅つきをしているとイメージ出来た時代は、

今よりもはるかに情緒的な時代ではなかったか。

凝りを生理学的に乳酸と断定することは、

現代科学の仕事だ。

だが、私はその指先でそれとは別の

スピリチュアルな次元を見る。

凝りには竜が潜む。

その凝り竜こそ私たちの命を守る守り神だ。

凝り竜を凝りの呪縛から解放し、

凝り竜を宇宙と同化させた時、

ひとは天人合一の境地に至る。

天に飛翔した凝り竜は、

いつも私たちを見守っている。

 

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