カオスからコスモスを引き出す実践的養生法論~その参・トールライクレセプターを知っていますか?

免疫がある、免疫力がある、はイコール病気にならないこと、病気にかかりにくいこと、すなわち健康であること、の意味です。 さて、ではどうしたら、病気にならないで健康でいられるのでしょうか?

 

「マクロファージは異物を識別する」

マクロファージが発見されたのは、今から100年以上前で「自然免疫学研究の父」と称されるロシア出身の微生物学者イリヤ・メチニコフ博士がヒトデの体内で発見しました。

水生生物の研究者でもあったメチニコフ博士はイタリアのシチリア島で海洋生物の研究をしている際に、ヒトデの体内を顕微鏡下で観察していて、ヒトデをバラのトゲで刺した時に、そのバラで刺された傷の付近に集まってくる細胞があることに気が付きました。

このヒトデの体内から集まってくる細胞はバラのトゲの先についた細菌を取りこむために集まってきたのです。
このトゲの傷に集まってきたヒトデの体内の細胞をメチニコフ博士は「食細胞」と命名しました。

この「食細胞」がのちに言うマクロファージです。マクロはギリシャ語で「大きい」を、ファージは「食べる」を意味します。
ですから、マクロファージは「大食い細胞」という意味になります。

体内に侵入してきた細菌やウイルスや、花粉などの異種タンパク質も含めて侵入者である抗原となる異物をなんでもバクバクと貪食(どんしょく)してしまう、まるでフードファイターのような知性のないちょっとお馬鹿な大食い細胞。これがここ100年ほどのマクロファージのイメージでした。

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しかし、さにあらず。
実はマクロファージの細胞膜には異物を認識するレセプター(受容体)が存在し、この異物認識レセプターを使ってマクロファージは巧みに異物の素性を判別できることが、メチニコフ博士の「食細胞」発見から100年を経た最近になり、ようやく、わかってきたのです。

つまり、マクロファージは、ただムシャムシャ、パクパクとセサミストリートに登場するクッキーモンスターのように異物を食べていたわけではなかったのです。

マクロファージは異物を食べながら処理し、そしてその食べた異物がナニモノなのか、を知性的にレセプターを使って弁別し識別し、その情報をリンパ球のT細胞へと抗原提示という形で伝達までしていたのです。

マクロファージは決してお馬鹿な大食い細胞ではなかった。マクロファージには異物を弁別し識別できる知性とも呼べるレセプターが備わっていた。

このマクロファージの細胞膜にある異物を識別するレセプターが、今回の主役「トールライクレセプター」です。

 

「マクロファージが免疫のすべてのカギを握っている」

トールライクレセプターはヒトのマクロファージには10種類あります。このトールライクレセプターはヒトのマクロファージだけにあるわけではなく真核生物の動物たちのすべてに備わっているといっても過言ではありません。

ヒトをはじめとする哺乳類のマクロファージのトールライクレセプターは10種類ほどですが、マウスには12種類、海に泳ぐ魚のフグには12種類、昆虫のハエには9種類、と種によってトールライクレセプターの数は異なります。海辺の磯に棲むウニにはなんと222種類ものトールライクレセプターが備わります。

このマクロファージの細胞膜にあるトールライクレセプターという異物認識機構を使って、わたしたちヒトを含む動物たちは、体内に侵入してくる異物を認識し、しかるべき免疫システムを起動し、このウイルスや細菌や異物が膨大にうごめく地球環境で生き延びてきました。

ヒトのマクロファージに備わるトールライクレセプターは種類ごとにナンバーが施されています。
そのそれぞれのナンバーはそれぞれが得意とする分子に反応します。

例えばトールライクレセプターの2番であるTLR2は、乳酸菌などのグラム陽性菌の細胞壁成分であるペプチドグリカンという分子に特異的に反応します。このTLR2は乳酸菌のペプチドグリカンだけでなく、細菌の菌体成分であるリポ蛋白質や、赤血球凝集素や、菌類のもつマンナン多糖分子にも反応します。

またトールライクレセプターの4番であるTLR4は、植物共生菌のグラム陰性菌であるパントエア菌などの細胞壁成分であるリポポリサッカライド(リポ多糖、LPS)に反応します。そしてTLR4はリポポリサッカライドだけでなく、やはり菌類のもつマンナン多糖分子や、血中繊維素の前駆体であるフィブリノーゲンや、ウイルスの表面タンパク質のカプシド分子や、生体防御タンパク質のヒートショックプロテインなど複数の分子に反応します。

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これらTLR2やTLR4はマクロファージの細胞膜の表面にあるトールライクレセプターですが、驚くべきことに、トールライクレセプターのなかには、マクロファージの体内である細胞質内におけるエンドソームという小胞に存在するナンバーがあります。

このマクロファージの胃袋ともいえるエンドソーム内で異物を認識するのがトールライクレセプターのTLR3と、TLR7とTLR8、TLR9の4つのナンバーです。

このマクロファージのエンドソーム内にひそむTLRの何がスゴイのか? というと、実はこれらマクロファージのエンドソーム内にひそむTLRはウイルスや細菌のDNAやRNAを識別できるのです!

ウイルスや細菌はまず初めにマクロファージの細胞膜表面が口(くち)のようになってマクロファージ内に取りこまれますが、これだけでは、まだウイルスや細菌がナニモノなのか、はわかりません。

ウイルスや細菌がマクロファージの体内に取りこまれて、ある程度、消化分解がなされると、ようやくウイルスや細菌のDNAやRNAの分子の断片が見えてきます。このマクロファージのエンドソーム内で発見されるウイルスや細菌のDNAやRNA断片から、そのウイルスや細菌がナニモノなのかを弁別し識別し、いわば取りこんだウイルスや細菌のDNAやRNAの個人情報、アイデンティティーカードを抗原として細胞膜に旗印に掲げて、マクロファージはT細胞へと抗原提示をおこないます。

このウイルスや細菌のDNAやRNA情報の伝達、アイデンティティーカードの提示、旗揚げ、抗原提示も、マクロファージの重大な役目なのです。