ミトコンドリアは母から母へと受け継がれる~『サルでもわかるハリィー先生とトリ子さんのアヴァンギャルドな東洋医学講座』 第13話

『母の日』にちなんで、こんな20億年のファンキーなわたしたちの生命史に思いを馳せて頂ければ、幸いに存じます

「え~っ、それってどういうこと?」

ハ「ここはハリィー流にザックリと解釈すると、それがミトコンドリアの生き抜いていく戦略だったってことだね」

「あっ、つまり、こういうこと? 今から20億年前に原始真核生物の体内に共生したミトコンドリアは、その共生したホスト(宿主)の体内で生き残っていく道を見つけた。そしてそこで生き残っていくために、そのホストの体内で分裂増殖して一定数のコロニー(群体)を築いた。そうしてミトコンドリア・コロニーつまりはミトコンドリア・ネットワークを形成して、ここ20億年間を真核生物の体内で共生することで種を維持してきた?」

「お~、イイじゃない! そういう仮説はミトコンドリア主観でとっても面白いね。でね、ミトコンドリアは自分たちが生き延びるために、環境ストレスで変異が予想される自分たちのミトコンドリアDNAのバックアップデータを大量に確保しておくことを思いついた。だからミトコンドリアDNAがヒトの各細胞内にはやたらと多い、こんな仮説はどう?」

「う~ん、なんだかミトコンドリアを観る視点がだいぶかわってきそうだわ。ミトコンドリアって、最強じゃね?」

「まあ、最強だろうね」

「そしてミトコンドリアはそれぞれが共生しているホストの種の体内で、その種が絶滅しない限りは永遠に居続けようとした。その方法こそが母系遺伝で自分たちを子々孫々に伝承していく方法だった。それが『ミトコンドリアが母から母へと受け継がれる』というミトコンドリア見つけた生きる道だった? そうなの、先生?」

「うん、図星だろうね。まさにそれがミトコンドリアの生きる道、だったんだね。でも、一般的にはミトコンドリアは真核生物の体内に飼われている奴隷とか小作人というイメージで語られる場合が多いんだよ」

「え~、ミトママは奴隷だったの? おいおい、それじゃあ、まるでYパパが暴君みたいじゃん?(笑)」

「たしかに、そんな風に見えないこともない。だってミトコンドリアDNAのコピーが各細胞に膨大にあるといっても、そのミトコンドリアDNAの遺伝子はほんの少々の機能しか有していない。なんでも20億年前にホストに共生した際に、持っていたミトコンドリアDNAの遺伝子のほとんどをホストの核DNAに移転してしまったからね。だからミトコンドリアは20億年前から主体性を失って、ホストの核DNAの指示に従う奴隷になったんだと、そんな風に見ることが一般化している」

「やっぱり、Yパパは悪いヤツだ(笑)待てよ、でも、ミトコンドリアって生死の手綱を握るシシ神様だったよね。つまり細胞アポトーシスすら操る……」

「そっ、それそれ、ビンゴッ! ミトコンドリアはとってもしたたかなんだよ。20億年前にホストに自分の遺伝子を提供して、言わば恭順して従うフリを見せたけど、実際は自分たちのミトコンドリアDNAを軽量化して身軽になって、その身軽になった身でミトコンドリア・ネットワークのコロニーを形成して、結局は上手にホストを利用して自分たちの生きる道、完璧な足場を築いたんだ」

102830243

 

「オーッ、勝った、やっぱり、ミトママは強し(笑)」

「ほんと、ほんと、まったく女には勝てないよね。ウチもそうだもん」

「えっ、せんせい、地雷踏んでます(笑)」

「はい、地雷を踏むのは得意です(笑)まあ、ほんとミトコンドリアの生存戦略は知れば知るほどに驚異的だね。このミトコンドリアがいてくれるお蔭でわたしたち真核生物は酸素濃度の上がったこの地上で生きることができるんだけど。でね、トリ子さん、ヒトの卵子には何個のミトコンドリアがあるかは知ってる?」

「また来た。今度は絶対に当ててやるから! う~ん、ミトコンドリアDNAに関しては各細胞に1個と思わせて、さっきはフェイントで数千~数万コピーだったから、今度も通常細胞に300個余のミトコンドリアがあると思わせて、だいたい同じくらいと答える裏をかいて、そうだわ、ヒトの卵子には驚くほどのミトコンドリアがある?」

「いやっほ~、当た~り~! はい、ヒトの卵子1個には、なんと10万個ものミトコンドリアが存在します!」

「ワーォッ、その10万個のミトコンドリアが最終的には60兆個の細胞内で1京8000兆個まで増えるのね。もうミラクルとしか言いようがないわ」

「ちなみに精子のミトコンドリアは100個くらいしかないんだって。精子は身軽でなければならないし、片道切符の役目しかないからね。男の背中に哀愁が漂うのは、こんな生物学的背景があったりするんだよ」

「でも男の背中には人生が出る。ハリィー先生、男は生き様よ」

「いや、まったく。男の精子のミトコンドリアは卵子にドッキングすると、速やかに分解されてしまう。ミトコンドリアは厳密に母から母へと受け継がれる。母の偉大さ、を痛感するね」

「母は強し、は生物学的に正しかったのね。今回の講義、ミトママもきっと草場の蔭で喜んでくれてるわよ」

「うん、Yパパも、同じように喜んでくれてるんじゃないかな?」

「そうね、ミトママとYパパのふたつのチカラが合わさったのが、わたしたちの細胞、わたしたちの命だもんね。とってもかけがえのない命をわたしたちは継承しているのね」

「『母の日』にちなんで、こんな20億年のファンキーなわたしたちの生命史に思いを馳せて頂ければ、幸いに存じます」

 

《今村 光臣 さんの記事一覧はコチラ》
https://www.el-aura.com/writer/imamuramitsuomi/?c=88528