細胞のお喋り〜『サルでもわかるハリィー先生とトリ子さんのアヴァンギャルドな東洋医学講座』第9話. 

そう、いまに絶対にヒト細胞界60兆個の代表から感謝状が届くはずだよ。その感謝状は痛みが軽くなったとか、気分が良くなったとか、笑顔になったとか、そんな治療後の身体の感触、というカタチだけどね。

「アハハ、ほんと、ここんとこオキシトシンに関してはよく講義したね。でね、なんでもホルモンとは別に免疫細胞たちが分泌する信号分子はサイトカインという呼び名で、脳や神経のあいだで使用される信号分子は神経伝達物質と呼ばれてるんだけど、いちおうこうした細胞たちが使用している分子言語である信号分子をホルモンという呼び名で一括しようという動きが今、あるんだよ」

ト「ホルモンが分子言語? ねぇ、先生、細胞たちが分子言語で会話してるの?」

「そう、まさに細胞たちは分子の言葉で会話をして、動的恒常性を維持しているんだね。それでこの分子言語のうちこれまでホルモンと呼ばれていたポピュラーな分子は今、だいたい100種類ほど発見されていて、続々と新しいホルモンが見つかっている最中で、それからあまり耳慣れない用語のサイトカイン、この免疫細胞の分子言語のサイトカインという分子は、だいたい同位体も含めて数百種類、さらに神経伝達物質にいたっては、なんと1400種類もあるんだって!」

ト「エーッ、細胞の言葉、メッチャ、多いじゃん! マルチリンガル天国? 翻訳してくれ~(笑)」

「うん、自分も調べてビックリだね。生理学を普通に学んでも、アドレナリンやインシュリンなんかのせいぜいメジャーなホルモンについてそこそこ知ってる程度の常識だけど、とにかく細胞たちが使用している分子言語はもう膨大な語彙にのぼり、いまわかっているだけでも、だいたいは単純に2000種くらいはあるって感じかな。でも、たぶん、そんなもんじゃあなくて、もともっとありそう」

ト「その2000近い細胞の言葉を細胞達はそれぞれ聞き分けて使いこなしながら、わたしたちの体内でひっきりなしにお喋りしているのね」

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「そういうことだね。それで免疫細胞の交わす言葉のサイトカインという分子のインターロイキンという分子の一種には、炎症を誘導する作用があって、そのあるインターロイキンの作用を阻止する薬剤がリウマチの痛みを緩和するなんて成果もすでに実現しているんだよ」

ト「えっ、それって細胞の言葉狩りみたいな感じかしら? でも、患者さんが喜んで救われてるなら、そうした応用もいいのかもしれないわね」

「細胞にしてみれば、うわっ、情報統制、来たっ、あの言葉が使えなくなっちゃった、めんどくせっ、って感じかもね。でも、どんな言葉を細胞が使っているのか、そんなことがわかってきたってのは、やっぱり生理学のとんでもない進歩といえるね」

ト「で、鍼灸指圧はその細胞の言葉を遮断するんじゃなくて、むしろ、もっともっと細胞たちにお喋りするように、ネタを投入する、そんな作用があるってことよね」

「そう、それが今回のキモなんだね。鍼灸指圧で分泌が高まるのがオキシトシンというのは、ここ数回の講義でよく理解できただろうけど、まだまだ素晴らしいホルモン誘発作用があって、例えば一酸化窒素なんていうガス分子もホルモンの一部とされるけど、この化学式でNOと記載される分子ガスは皮膚を押すことで皮膚と血管から分泌されて、血管を拡張して、マクロファージを活性化して、認知機能を高めて、マウスの実験では被曝にも有効なんてエビデンスも取れてる、とっても優れた生理活性作用があることがわかっているんだよ」

ト「まさに『指圧の心 母心 押せば一酸化窒素の泉湧く』じゃない、先生!」

「51億本の毛細血管を含む地球2周半、9万6000キロメートルの血液の流れ、血行促進、血流の確保、はあらゆる意味で養生健康の基本だから、その血流促進を鍼灸指圧が一酸化窒素を介して手助けできることがわかったというのは、もうミラクル、アンビリーバボー、奇跡的な発見だよね」

ト「もちろん一酸化窒素だけでなくオキシトシンやβエンドルフィン、ヒートショックプロテインなど鍼灸指圧は本当によく細胞たちのお喋りを促進できるわよね」

「そう、いまに絶対にヒト細胞界60兆個の代表から感謝状が届くはずだよ。その感謝状は痛みが軽くなったとか、気分が良くなったとか、笑顔になったとか、そんな治療後の身体の感触、というカタチだけどね」

ト「あっ、そうか、あたしも先生に治療してもらうと、いつも細胞たちから感謝状が来てたんだ。身体が軽くなって気分が良くなって。そういうことだったんだ!」

「細胞にいっぱいお喋りをしてもらって、細胞と友達になる医療。それが鍼灸指圧だね」

ト「さっすが、ハリィー先生、いいこと言うわね」

「ダハハ、では、気分が良くなったところで、次回のお題は風の向くまま、気の向くまま(笑)」

 

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