1g2万円以上もするお香の中のお香

さすがに蘭奢待を手に入れることは不可能ですが、現在でも「伽羅は手に入れることが可能」です。非常に貴重なものであり、冒頭に紹介したように「1g数万円」するものですが、沈香よりも複雑な香りがするそうです。

【一般的になってきているお香】

Trinity読者の方ならば、「生活の中にお香を取り入れている」という方も多いことでしょう。最近では100円ショップで販売されるほど、一般的になってきていますが、そういった安価なものは科学的に作られた合成香料であり、場合によっては健康に害を与える可能性もあります。といっても、そのような危険なものはごく一部であり、大部分のお香はよほど過剰に使わない限り安全であり、「精神の安定やリラクゼーションをもたらしたり、場の空気やエネルギーを浄化したり」と、「多くのメリット」が秘められています。

 

【古来の美意識を感じさせる香道】

そんなお香ですが、日本には一定のルールにしたがってお香をたいて、その香りを判断するという「香道」というものが存在しています。香木をかぎ分ける「聞香」や数種類の香りを組み合わせる「組香」などがあり、特に組香は『古今集』や『源氏物語』などといった「古典文学をモチーフ」としており、ゲーム的感覚がありながらも、「日本古来からの高い美意識を感じさせてくれるもの」です。当初は「宗教的儀礼」だったものが、平安時代には組香などが取り入れられて、室町時代に現在のような作法が整ったとされています。

この香道で「六国五味(りっこくごみ)」というものがあります。これは香木の分類法であり香木を産出地で「伽羅・羅国・真那賀・真南蛮・真那伽・寸聞多羅・佐曾羅」という6つの国で分類し、さらに香りを「甘・酸・辛・苦・塩辛い」の5つの味にたとえて分けたものです。

菖蒲香(画像提供・ウィキペディア)

菖蒲香(画像提供・ウィキペディア)

 

【150年の歳月を経て偶然産み出される香木】

六国の中で最上級の質とされているのが「伽羅(きゃら)」。香道で対象となる香木は「沈香(じんこう)」。「沈香も焚かず屁もひらず」ということわざがありますが、このようなことわざに残るほど、「お香の代名詞となっているもの」です。

こちらは、木であるにも関わらず、水に浮かべようとしても沈んでしまうことから、「沈香」と呼ばれるようになりました。なぜ、水に沈むのかというと、さまざまな要素によって、「木に樹脂が沈着することで、比重が重くなり、水に沈む」のです。通常、沈香の元になる木は、幹も花も葉にも香りはないのですが、この「樹脂が独特の香りを発生させる」のです。このように、沈香は人工的には栽培することはできず、元になる「木が育つのに20年、さらに偶然の変化で沈香が出来るまでに50年、高品質のもになるには100年以上かかる」とされています。

 

【皇室の宝ともなっている伽羅】

それだけ貴重なものであるために、沈香は香木の代表とされているわけですが、その中でもさらに上級のものが前述した「伽羅」となります。香りの元となる樹脂の含有量が多く、前述の5味すべてを兼ね備えるというのが基準となっていますが、現在では「ベトナムで産出する沈香の中で、最も質の高いもの」を指すことが多いようです。

古い時代には良い物を褒める代名詞として「伽羅」が使われたこともあり、日本一の名香ももちろん伽羅でした。こちらは、「東大寺正倉院」に古くから収納されているもので、「長さ156cm、重さ11.6kg」というとても大きいものであり、現在はもちろん、当時でも非常に珍しかったために「蘭奢待(らんじゃたい)」という名前がつけられています。

今では定期的に正倉院展という展示会が開かれていますが、そもそも正倉院というのは「聖武天皇が集めた宝物を保存していた天皇家の宝物庫」ともいえる場所ですので、そこに保管されているということが、どれほどすごいことかわかるでしょう。さらに、この蘭奢待は「最高権力者の証」ともされてきました。

(画像提供・ウィキペディア)

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【日本の最高権力者を虜にした伽羅が持つ力】

「1465年に足利義政が削り取ったのをはじめとして、1574年には織田信長が、1877年には明治天皇」が同じように削り取った記録が残っています。その時代の最高権力者でなければ削り取れないという蘭奢待ですが、その香りは「強力な鎮静効果をもたらし、魔を退け、さらに漢方薬として喘息や嘔吐、腹痛、冷えなどに効果がある」ともされています。

さすがに蘭奢待を手に入れることは不可能ですが、現在でも「伽羅は手に入れることが可能」です。非常に貴重なものであり、冒頭に紹介したように「1g数万円」するものですが、沈香よりも複雑な香りがするそうです。ちなみに、沈香は貴重ではあるものの、線香などに使われていたり、香木も比較的手に入れやすいので、「お香の王様ともいえる沈香が気になる方」は、手に入れてその香りを感じてみることをオススメします。