一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.157 「SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬」

写真家、鋤田正義の「写真愛」が滲み出る
80年の軌跡を堪能するドキュメンタリー!

友人が鋤田さんのファンで数年前ポートレイトを撮ってもらったそうだ。

もちろん、高額のギャラを払って。
仕上がった写真は神秘的で映画スターのようであった。
へーっ、と思って鋤田さんに興味を持ったが、なんか顔を他の写真家と勘違いしていて、今回本作を観て驚いた。
そこに映っていたのはジャガイモみたいな顔をしたお腹の出た小柄なオジさんだったのだ。

えっ、この人?? でした? 私が鋤田さんと思っていたカッコいいロマンスグレーの長めのストレートヘアの写真家は誰だったのか??
それもあって、?? 状態で本作を観たのだが、鋤田正義って写真家のことがよく分からないまま映画は終わった。

疑問はそのまま、なんでこの人はたくさんのアーティストに愛され、凄い写真が撮れたのか?
その答えを知ることは、私の人生の学びなんだろう、と今は思っている。

 

数々の著名人が語る面白エピソード
見えてきた究極のプロフェッショナル

鋤田正義といえば、デヴィッド・ボウイの写真が有名だ。
また、マーク・ボランの写真も。

今回、YMOのジャケット写真や、映画「ミステリー・トレイン」のスチル撮影も担当してたことを知る。
他にも寺山修司の「書を捨てよ町へ出よう」のムービー撮影もしてるし、イギー・ポップや忌野清志郎、最近もMIYAVIなどの撮影をしている。

なんせ、今年80歳。その歴史は凄いものがある。

しかし、MIYAVI撮影では体調不良で撮影が遅れた描写もあった。
本作は、鋤田さんについて40人の著名人、関係者がエピソードを語る。
その中に鋤田さんのゆったりした口調のインタビューがちょいちょい挿入される。

中でも、私が鋤田さんのことが少し分かったかな? と思った証言が永瀬正敏のインタビューだ。

「ミステリー・トレイン」の写真集の撮影では、鋤田さん用に俳優たちはもう一度演技をしなおしていたと言う。
これは物凄い待ちの時間がかかるわけなんだけど、「鋤田さんはセットの隅でずっと手に持ったカメラを点検したり見たりしながら待ってたんですよね」。
その忍耐力は賛美に値する。

PANTAの撮影でも「真冬の撮影なのに、シャッター切らないんですよ」という証言が。
また、デジタルカメラを出て早々に使いだしたとか、最新の機器はすぐ使うとかの証言もあり、なるほど。

究極のプロフェッショナル、完璧主義者、新しいもの好き、挑戦者、若々しい精神、写真のためには命も覚悟もあり、という姿が浮かびあがってくる。

 

愚直に好きなことを続ける姿勢
それは人生への愛に通じる

私も写真を撮る。
最近は風景ばかりだが、以前はポートレートも撮っていて、人を撮るのは大好きなのだ。
前述の友人の写真も撮ったことがある。
その写真は鋤田さんが彼を撮った写真に負けてないと思う。

私は、彼の美しさを撮りたいと思った。
その思いがその写真には溢れていたと思う。
鋤田さんも同じなんだろうな。
被写体への愛。興味。
それは、滲み出るものなのだ。
また、撮る人、撮られる人の人間性も写真にはどうしても滲み出る。

鋤田さんが凄い写真を撮れたのは、被写体への愛ももちろんだけど、「写真」への愛があるからだろうな、と思う。
しかし、本当はよく分からない。
その答えはすべての生きることに敷衍するような気がする。
だから、私の一生の学びなのだ。
ただ、その答えは愚直に好きなことを続けていくことで得られるのだろう。

鋤田さんの人生を語る有名人のインタビューも楽しいが、鋤田さんの80年の人生は「作品」だなあ、としみじみ堪能。
「写真」の力と、「愛」の力を改めて感じさせられた作品だ。

 

監督 相原裕美
出演 鋤田正義 布袋寅泰 ジム・ジャームッシュ 山本寛斎 永瀬正敏
糸井重里 リリー・フランキー クリス・トーマス ポール・スミス 細野晴臣
坂本龍一 高橋幸弘 MIYAVI PANTA アキマ・ツネオ 是枝裕和 高橋靖子

 

©2018「SUKITA」パートナーズ
※115分

※5月19日(土)より、シネ・リーブル梅田/京都シネマほか全国順次公開
(6月~)シネ・リーブル神戸

 

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