一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビュー PART.153 「ザ・スクエア 思いやりの聖域」

お綺麗な言葉を並べても人間の本質は?
ブラックな展開に苦笑いと悲哀の傑作!

観終わって……。

正義とか、思いやりとか、綺麗な言葉を言うことはたやすいけど、どれだけ個人がその綺麗な言葉に値する行動をとっているか? と、辛辣な問いをされて、……となってしまう自分を意識せざるを得ない。
辛口というか、とても厳しい視点の作品(特にのほほん日本人にはよく分からず、は? となるかもしれない)。
その厳しい視点を論理的に、映画的に、ブラックな笑いを込めて描く傑作。
北欧のスウェーデンの哲学に唸ってしまうが、ここで起こっていることは日本で起こっていることと同じなのだ、と考えさせられる一作となっている。

冒頭から面白い。
主人公は美術館のキュレーター。
朝、仕事場へ向かっていると「助けて!」と言う女性の声が。主人公はえっと驚くが、回りの人々は知らんふり。
そのうち、女性の声は近づいてきて、なにやら男に追われているらしい。
女性は主人公に助けを求め、主人公は戸惑いながらも側にいたもう一人の男性とともにその男を撃退する。
しかし、まわりの通勤の人々は見て見ぬふりで足早に通りすぎる。
なにかやり遂げた感いっぱいの主人公がハッと気づくと携帯と財布がなくなっていた。

 

信頼と思いやりの聖域ってなに?
理想や主義は簡単なことで破綻する

主人公は次の展覧会で、現代社会に蔓延するエゴイズムや貧富の差に一石を投じる狙いで「ザ・スクエア」という参加型アートを企画している。
その地面に描かれた四角いスペースは「信頼と思いやりの聖域」で、この中では誰もが平等の権利と義務を持っている、と掲げられている。
主人公はこの考え方をもちろん支持している。
しかし、携帯と財布を盗んだ犯人を探し出す過程で主人公は自らの主義と正反対の行動を軽はずみにとってしまい、彼の人生は暗転し始める……。

主人公は長身ハンサム、ファッショナブルでインテリ、キャリアも申し分ない。
しかし、その中身は小心者で、エゴイストで、世間体を凄く気にするし、傲慢で自分勝手な面も多々ある。
でも、多かれ少なかれ、主人公の姿は私たちの姿でもあるのだ。
家のドアを一歩出たところから、私たちは世間と対峙する。
世間の中でちゃんとしなければ、人に迷惑をかけないようにしなくちゃ、と生きることを求められる。
また、自分自身もそう生きることを望むのだ。
しかし、理想や主義は簡単なことで破綻する。

 

私だったらどうするか?
私も主人公と同じみっともなさを抱える

劇中で、私たちの建前を試されるようなシーンが何度もある。
たとえば、美術館での公開トークショーで、会場から何度も卑猥な言葉が飛んでくるのだ。
しかし、その人は病気でそんな言葉を発してしまうと同伴者は言う。
参加者たちは仕方ない、と思うのだが、トークを遮る卑猥語に辟易してしまう。
高尚なアートを語る場での卑猥語。
病気だからその人を許そうと思うのだが、イライラと怒りは募る。
また、展示会の挨拶が終わり、食事を用意しています。
と言われると退屈そうだったジジババの関係者が話も聞かず食事の場所へと走っていこうとする。
すると司会者が「走るな!」と怒鳴るのだ。

どれもこれもブラックな笑い満載。
私だったらどうするかしら? と思うことばかりだ。
こんな過激ではないかもしれないけど、日本でも「おもいやり」や「道徳」「正義」など綺麗な言葉に惑わされてその実中身はからっぽ。
他人のことなんてどうでもいい。
自分と家族さえ良ければいい。というエゴイズムが蔓延している。
それは、私も例外ではないのだ。
観ながら、みっともない主人公に驚きつつ共感もし、哀れみもし……。

 

目の前のこと、人に誠実に対する
それで十分。それが大変だけど。

さて、それで私はどうすればいいのか?
理想や主義はそのままで、目の前のこと、人に誠実に対すると言うことだろうか。
その時の私のできる誠実でいいと思う。

できなかったごめんなさい。
いい加減なことも大切だ。

カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを獲った本作。
移民問題やテロ、貧困問題で揺れるヨーロッパ受けする作品である。
しかし、前述したように根は日本も同じ。
これからもっと自らの生き方を試されるような時代になってくる。
今一度、自分の信条を見直すきっかけとなる、啓示のような作品である。

 

監督・脚本 リューベン・オストルンド
出演 クレス・バング エリザベス・モス トセミニク・ウェスト テリー・ノタリー
クリストファー・レス
※151分

※2018年4月28日(土)より Bunkamuraル・シネマ
他全国順次公開
配給:トランスフォーマー

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