一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.152「女は二度決断する」

この決断は正解なのか、それとも?
自身の人生観を問われる衝撃作!

ハリウッドで活躍する女優、ダイアン・クルーガーが主演し、カンヌ国際映画際で主演女優賞を受賞、また、ゴールデングローブ賞の外国語映画賞を受賞したドイツ映画の佳作。

ダイアンはドイツ出身で初の母国語での演技。
いつもの綺麗でアメリカ的な役柄とは全く違うリアルな怒りと悲しみに満ちた演技を披露していて感動的だった。
実際にドイツで起こったネオナチによる連続テロ事件に着想を得て作られた本作は、被害者がまるで加害者のように扱われ、「ええっ?」という展開を見せる。
そして、ラストに主人公がとった行動にはまたも「えええーっ!」と驚きつつも、彼女の二度目の決断には私は納得もした。
しかし……。
観終わって「しかし……」と、考えこんでしまうことは確か。
自らの人生観を問われるようなラストであるのだ。

 

ダイアン・クルーガーの渾身演技に
感動しつつ、ハラハラし通し!

ドイツ人のカティヤはトルコ移民のヌーリと結婚する。
ヌーリはかつて麻薬の売買で服役していた。
今は足を洗いカティヤと在住外国人相手にコンサルタント会社を経営。
一人息子も生まれ、平穏で幸せな日々。
しかし、ある日ヌーリと息子が爆弾テロの犠牲になり、命をおとしてしまう。
突然の喪失に気も狂わんばかりになるカティヤ。
やがて犯人は人種差別主義者のネオナチによるものと判明する。
カティヤは事件の日、犯人の女を目撃していた。
目撃証言があるにもかかわらず、犯人たちはアリバイを主張し、しかもヌーリの前科や、カティヤの薬物使用などをあげつらい裁判は思いもよらぬ方向へ進んでいく……。

金髪に染めた下から地毛の黒髪が見えているままの頭で、ほぼすっぴんのダイアン・クルーガー。
夫と息子を同時に失い、傷心にのたうちまわる。
しかし、犯人が分かると怒りで目はつり上がりファイターとなる。
感情爆発である。
ひっきりなしにタバコを吸い、イライラは頂点だ。
渾身の説得力のある素晴らしい演技。
母国語の力も感じる。
間違いなく彼女の代表作だ。
そんな彼女の悲しみが癒されることを観ている私は強く願うのだが、とんでもない結末が用意されている。

裁判でどんどん不利になっていくカティヤの状況に終始ハラハラする。
しかし、そこで犯人の父親の証言が印象に残った。
「息子はヒトラー崇拝者です。卑劣なことをしました」と、息子の犯行を証言したのだ。
その父親と法廷の外でタバコを吸いながらしばし話をするカティヤ。
こういう触れ合いはたぶん日本では皆無だろうな。
父親の態度に希望の光を感じた。

 

今、世の中自体が何事も「許さない」
方向へと向かっていないか?

世の中は不条理に満ちているものだし、多くの悲しみや怒りや無情は必須である。
許せないことばかりである。
しかし、同時に世の中は喜びや光や愛にも満ちているのである。
人の一生はプラスマイナスゼロという。
良い事ばかりじゃない。
悪いことばかりじゃない。
今、世の中で起こっていることはすべて意味があるのだ。
カティヤは犯人を許すことができなかった。
でも、彼女が許そうと努力したらどうだっただろうか?
残念ながら、そういう主人公を映画で観たことはない。

カティヤが犯人たちを許したら、私は大号泣していたと思う。
本作のラストは、世の中自体が「許す」とは違う方向に行っているのだろうとも感じられる。
しかし、カティヤの二度目の決断は前述したが、私は納得した。
観終わって自身の内省の旅に出られる、優れた一作である。

 

 

監督・脚本 ファティ・アキン
脚本 ハーク・ボーム
出演 ダイアン・クルーガー デニス・モシット ハーバーベック:ヨハネス・クリシュ
サミア・ムリエル・シャンクラン ヌーマン・アチャル ヘニング・ペカー

※106分
※4月14日(土)~全国ロードショー
Ⓒ2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,
Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

 

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