一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.149「北の桜守」

樺太からの引き上げ家族
生き抜いた母と子の感動一代記!

吉永小百合の120本目の映画である。
彼女は日本の映画界では特別な存在の女優だ。
高倉健みたいなものだと思う。

彼女にインタビューしたこともあるが、サバサバした明るい人で、スタッフや共演者に好かれるのも分かる人柄だった。
声が独特でひっそりした低い声音なのだが、声の印象と実物は随分違うな、と思った記憶がある。
でも、声はその人の本質を表すので、きっとひそやかな部分も持っているのだろう。

今作はまたもや極寒の北海道ロケを乗り切っての堂々演技。
さすが、スポーツウーマンである小百合さまだなぁと感心した。

ソ連の侵攻によって夫と別れ、南樺太から二人の息子を連れて網走へ引き上げてきた主人公てつ。
彼女の三十年に及ぶ半生を時間を交錯させながら、また、舞台での表現も交え活写する一大半生記。

 

舞台パートと主題歌が素晴らしい!!
それもあってラストの大団円では号泣!!!

最初、いきなり舞台のシーンが挿入されて、「んっ?」と戸惑うのだが、慣れてくると、引き上げ船の中の様子や、集団自決のシーンなど、簡略化された舞台ならではの演出が素晴らしくて驚きながら見てしまった。
この演出はケラリーノ・サンドロヴィッチが担当していて、彼の凄さを確認させられた。

また、印象に残ったのが、舞台パートで歌われる主題歌である。
これが、もう聴くだけで涙の曲調なのだ。
北の歌、というかなにか童謡のような民衆の歌のような懐かしいマイナー調の曲で、凄いインパクトなんである。
一体誰の曲? と思っているとラストクレジットで作詞・作曲小椋佳と出てきて「おうっ!」と納得した。
小椋佳はやはり、天才である。
この歌で、本作はぐぐっとランクアップしていると言っても過言ではない美しい曲である。

さて、それもあってか、
私はラストの大団円で号泣してしまった。

スピリチュアルな人だからこそ、
自分も桜も甦らせることができる

てつは、網走に引き上げてから、辛いことがいくつもあるのだが、なんとか生き抜き、食堂を細々と営んでいた。
しかし、言動がおかしくなり、次男の修二郎の家に引き取られることになる。
十五年も会っていない次男は懸命に母親の面倒を見るが、てつはある日姿を消す。

てつはボケているわけではないのだが、鏡の中の自分を友だちだと思い「久しぶりね」と話かけたり、傷んだ桜の樹に話かけたりする。
向こうの世界を理解しているスピリチュアルな人なのだ。
「桜守」なので、桜を甦らせる力を持っている。

 

失った大切な人たちと出会える
樺太の悲劇、日本人の再生を願う

そんな彼女の一番の悲劇は引き上げ船での喪失だ。
そのことが、いつまでも彼女を苦しめる。
でも、彼女は周りの人に助けられ、次男の愛情もあり、朽ちた桜が
甦るようにラスト、再生する。
長い長い旅だったけど、やっと!
失った大切な人たちが笑顔でてつを囲む。
これは、泣かずにおられようか。
てつの満面の喜びの表情に、涙が何度も頬をつたった。
歌が心に染みわたった。

劇中、いくつか突っ込めるところはあれどそれは書くまい。
小百合さま主演映画なのだ。
そして、樺太から避難してきた多くの日本人の悲劇を描いた作品であるのだ。
その彼らの悲しみが、本作で少しでも癒されることを願う。

©2018「北の桜守」製作委員会

監督 滝田洋二郎
脚本 那須真知子
舞台演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演 吉永小百合 堺雅人 篠原涼子 岸部一徳 阿部寛 佐藤浩市
高島礼子 永島敏行 中村雅俊 安田顕 野間口徹 毎熊克哉
※126分

※3月10日(土)~全国ロードショー

 

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