一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.148 「スリー・ビルボード」

先に開催されたベネチア国際映画祭でも脚本賞に輝き、早くも本年度賞レースの大本命との呼び声も高い超話題作が、いよいよ日本に登場する。

最強の母親と地元警察の闘い
アメリカの暗部をあぶりだす問題作!

先に発表されたゴールデン・グローブ賞の作品、主演女優、助演男優賞など多数を受賞し、三月のアカデミー賞も期待される一作だ。

シリアスな問題作と言っていいだろう。
娘をレイプされ殺された母親が、何ヶ月も捜査が進展しないことに業を煮やし三枚の広告看板を出す。それは地元の警察署長を挑発する内容だった。
しかし、署長は癌で余命幾ばくもなく、また街の人々に信頼されている人物で、母親はたちまち非難を浴び孤立することになる。

この母親は、ものすごく強いのである。ターミネーターみたいなのだ。
自分を脅したり傷つけようとする人間に対して一歩も引かず、やり返す。
それは小気味良いほど。

そして、これほど論理的に言い返せるアメリカという国の国語の教育というか、英語の論理的構造に改めて感心した。
こんなふうに言い返せる日本人の主婦がいるだろうか?
ほとんどいないだろう。

 

母親役の女優の偏屈ジジイ顔
複雑な感情の、織物のような表情

また、平気で嘘をつくところも感心した。
母親は署長のシンパである歯医者から麻酔なしで歯を抜かれそうになり、逆に歯医者の親指をドリルで貫いてしまうのだが、それを署長に「君がやっただろ?」と問われて「やってないわ」と真顔で言うのだ。
このふてぶてしさ。

終始、この母親は最強で、ふてぶてしく、厳しい。
時に涙したり迷ったりするのだが、そんなものは嘘だろ? そんな描写はいらない、とさえ思ってしまうほど頼もしいのだ。

演じるフランシス・マクドーマンド。

奈良岡朋子みたいな顔になって来た。
厳しい顔。知性が滲み出る大人の顔。美しい。偏屈ジジイの顔である。
昔は不細工だと思っていたが、歳をとって物凄い堅牢な顔になった。
彼女の顔を見ているだけで楽しい。

複雑な表情の織物を見るようである。
こんな役者は日本じゃ……やっぱ奈良岡朋子くらいだ‼︎
アカデミー賞獲るな。

 

脚本賞ものの巧緻な脚本
作りこまれすぎてリアルじゃない?

本作は驚くことが他にもあって、署長のとった行動も!  で驚いた。

突然だったのでえっ‼︎ だったが、ものすごくアメリカ人ぽいと思った。
署長の妻が母親のところに来て恨み言を言うのだが、その冷静な態度や言葉にも驚いた。
また、差別主義的な巡査の暴力的な行動にも驚いたし、それが罰せられないのにも驚いた。

そういう意味で、すごく頭で考えて作りこまれた脚本という感じだ。
そこらへんは巧い脚本なのだが、少し引く点でもある。
現実はそんなふうにいくかしら? と思ってしまうのだ。

 

やられたらやり返すでは、未来はない
救いもない 受け入れるしか道はない

アメリカの田舎町は今も人種差別はあたりまえ、レイプ殺人も多数あり、捜査もなかなか進まず、警察は無能で傲慢もまかり通る。
今のアメリカの問題をあぶりだしたような作品は息が詰まりそうになる。
そして、どこまでも闘う、やられたらやり返す母親の態度に次第にとまどう。
これは、アメリカという国の態度と同じである。
日本人である私はアメリカ人の考え方、行動に驚き、感心しながらやはり、違うな、と思うのだ。
これからの世界の手本になるのは日本だと言われている。
この母親が日本人だったら? と思う。

受け入れることで進むこともあるのだ。
本作の母親がただの分からずやでないことを祈って試写室を後にした。

深く考察を促がされる知的な一本である。

 

監督・脚本 マーティン・マクドナー
出演 フランシス・マクドーマンド ウディ・ハレルソン サム・ロックウェル
アビー・コーニッシュ ジョン・ホークス ピーター・ディンクレイジ
(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
※116分

※2018年2月1日(木)TOHOシネマズ梅田他、全国ロードショー
Ⓒ2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

 

 

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