一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.140 「わたしたち」

許し、受け入れ、愛する……それを学ぶために私たちは生まれてきた。

少女たちが教えてくれる愛すること
いじめ世界を諦めないために

少女の不安げな顔のアップで映画は始まる。

クラスでのチーム分けで、どんどん人が選ばれていくのに、少女だけは最後まで選ばれない。
その少女、ソンはどうやらクラスでいじめに遭っているようだ。
なぜかは描かれない。
夏休み前の終業式の日にソンは転校生のジアと知り合う。

仲良しになって、互いの家を行き来し、いつも一緒。
至福の夏休みを過ごしたソンだったが、新学期になるとジアはソンをいじめているボラと仲良くなって、ソンをボラと一緒になって仲間はずれにしだす。
ソンはそれでも、ジアに話かけるのだが……。

 

ソン役の少女の一喜一憂が見応え有り
感情が表情からあふれだす

ああ……。ため息。
こどもの世界も大変だ。
大人の世界よりもっともっと大変なのかもしれない。
傷つけあって血を流す。

それもザクっとかスパッとか、切れ味よく鮮血が飛び散るような傷つけ合いである。
観てて深いため息が出た。
しかし、大変面白いのだ。

ソンの心の動きが繊細な表情ですべて表現されていて、彼女が喜ぶ、当惑する、がっかりする、傷つく、悲しむ……その顔を一瞬たりとも見逃さず見つめていたいと思った。
少し意地悪な気持ちもありつつ、ソンの一喜一憂が見ごたえありなのだ。

主役の少女ふたりはオーディションで選ばれ映画初出演。
特にソン役の少女のこども特有の美しさには見とれた。
ジア役の少女は意地悪そうな目が良い。

 

人は皆傷つくことを恐れている
一度拒否されたらもう、いいやと手を離す

ラストはどうなるのかと思っていたら、ソンのとった行動に驚いた。
それは「勇気」あるもので、ソンは大人になっても大丈夫、だと思えた。

しかし、これは映画の話で、実際にはソンのような勇気ある行動ができるこどもは多くないと思う。
みな、早々に一度拒否されたら諦めてしまうから。
傷ついたら殻の中に入ってしまうから。
傷つくことを極端に恐れているから。

私もそうである。
ソンとジアを観ながら、彼女たちの気持ちが良く分かった。
仲良かった友だちがもう一人の友だちと仲良くなって、私と疎遠になる。
三人って一番嫌な数だ。
私は仲の良い子を独占したいのに、もう一人邪魔な子がいつもいる。
あの子、いなくなればいいのに。
よくそう思った。

その気持ちは大人になっても続いた。
でも、歳を重ねるにつれて一歩引くようになった。
諦めたのだ。

 

わたしたちは何度も愛さなければならない
愛することを大切にする韓国人

監督は自身の幼い頃の経験をもとに本作を作ったそうだ。
監督の言葉で印象深いものがあった。

「わたしたちは多様で複雑な理由で愛する人を傷つけ、愛するひとに傷つけられる。それでも、私たちは本当の気持ちを伝えることを諦めてはならない。前を向いて生きるためにわたしたちは何度も愛さなければならない」

とても、韓国的な文面だと思った。
たぶん、韓国人は、日本人より
「愛すること」を大切にしていると思う。

ソンのように諦めず、たとえ傷つけあっても許し、好きな人になんらかのアプローチや声をかけることは諦めてはならないのだろう。
許すことで、自分自身も楽になれるのだし。

 

許し、受け入れ、愛する
それを学ぶために私たちは生まれてきた

許し、受け入れ、愛することを止めない。
それを学ぶために私たちはこの世に生を受けたのだ、ということをすぐ忘れてしまう。
そのことを優れた映画は幾度となく私に教え、思い出させてくれる。

本作でも、そのことを胸の痛みとともに思い出した。
心に残る秀作である。

 

監督・脚本 ユン・ガウン
出演 チェ・スイン ソル・ヘイン イ・ソヨン カン・ミンジュン チャン・ヘジン
※94分

(C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED
※10月7日(土)~関西ロードショー
※東京、上映中

 

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