一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.138 「あさがくるまえに」

フランスでは臓器提供はしない、と正式に宣言しない限りドナー候補者となると言う。

臓器提供される少年の心臓
命は輪廻する 壮大な奇跡のドラマ

健康保険証の裏に「臓器提供に関する意思表示ができます」という文章を見つけたのはいつのことだったか。

私は漠然とだが、臓器提供をしよう、と思っていた。
しかし、まだ決断はしていない。

本作は少年の心臓移植をめぐる群像劇である。
交通事故で脳死と判断された若者シモン。
臓器コーディネーターのトマは両親に臓器移植の話を持ちかける。
即座に拒否する両親。
一方心臓移植を待つ中年女性クレール。
彼女の元へ担当医からドナーが見つかったと連絡が入る。
クレールは逡巡するのだが……。

恋人のベッドから抜け出し、夜明けの海で仲間とサーフィンに興じるシモン。
若さと奔放さと美しさが輝いている。
その帰り道、運転していた友達は疲れからうとうとしてしまう。暗転。事故。
ここまで不安と密かな緊張をはらみながら流れるように映画は展開する。

上手い。
私はシモンを心の片隅に残しながら、彼の臓器をめぐる人々の悲しみと葛藤と諦めと喜びと神秘を見せられることになる。

 

リアルな移植手術シーン
そこでの神聖な霊的行為に涙涙……。

シモンの心臓がクレールに移植されるまでをリアルに描くのだが、移植の手術シーンも今までに見た事がないようなリアルさ。
このリアルさがあるから、それを見ている私たちは心臓移植というものがどういうものか理解し、また人の身体の神秘も感じられるのだ。
私なんて、他人の心臓を入れてそれが繋がってまた動き出すなんて!
信じられないと思ってる口だ。
だから、手術シーンを見る時はいつも驚きで一杯である。

最近読んだ本で知ったのだが、脳とか臓器を手術で外気にさらすと、やはりそれだけでおかしくなる部分があるそうである。
そんなことを考えながら
興味深く見ていると、トマが手術を中断させた。
トマはシモンの耳元で両親からの伝言を伝えてあることをするのだが、私はここで泣いてしまった。
脳死でもちゃんと身体に敬意を払ってシモンに語りかけるトマ。
脳死でも、まだ魂は身体から切り離されていない。
ちゃんとシモンには両親の言葉が聴こえているのだ。
リアルな手術シーンの中で見せられる神聖な霊的行為。
ぐっと来ました。

 

私はあなた。あなたは私。魂はひとつ
私たちは神の分け御霊なのだから

シモンの心臓はクレールに受け継がれる。
そうやって、必要な人のところへ必要なものが行く。そして、命は輪廻する。つながっていく。
私はあなた。あなたは私。もともとは魂はひとつである。
私たちは神の分け御霊である。壮大な神秘のドラマを感じさせるラスト。
ラストクレジットで流れるデウィッド・ボウイの「ファイブ・イヤーズ」を聴きながら、私はまた泣けてきた。

フランスでは臓器提供はしない、と正式に宣言しない限りドナー候補者となると言う。
素晴らしい国だと思う。
臓器提供、献体、今一度私の身体の使い方について考えてみたい。

漠と永く心に残る佳作である。

監督・脚色 カテル・キレヴェレ
脚色 ジル・トーラン
原作 メイリス・ド・ケランガル
出演 タハール・ラヒム エマニュエル・セニエ アンヌ・ドルヴァル
ブリ・ラネール クール・シェン モニカ・ショクリ ドミニク・ブラン

※104分

※9月16日(土)~全国ロードショー
©Les Films Pelléas, Les Films du Bélier, Films Distribution/ReallyLikeFilms

 

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