一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.134 「ハクソー・リッジ」

ものすごいリアルな描写だった。メル・ギブソンという人は「ブレイブハート」でも「パッション」でも容赦ない映像を撮る人である。 本作でも戦闘シーンはCGをほぼ使ってないという。

銃を持たずに一人で75人を助けた男
彼の聖なる行為に「神性」を見る

「良心的兵役拒否者」そんな言葉は初めて聞いた。

宗教など信念に基づき兵役を拒否する者のことで、これはアメリカ軍では認められているそうだ。
本作の主人公デズモンド・ドスは、軍の訓練で銃を触ることを一切拒否し、除隊を進められるが断固として断り軍法会議にかけられる。
彼は「殺さず、傷ついた者を助ける衛生兵」として従軍を希望する。
彼の信念は仲間や上官の理解を得られず、臆病者と言われ制裁を受け、孤立してしまう。
しかし、ある計らいでその拒否は認められドスは第二次世界大戦の激戦地、沖縄の前田高地(ハクソー・リッジ)へと赴く。

150メートルもの切り立った断崖絶壁の壁を登るとそこには強敵の日本兵が捨て身の闘いを挑んできた。
ドスはナイフひとつ持たず、戦いで倒れて虫の息の仲間を探しだし、モルヒネを打ち、励まし、なんと、たった一人で彼らを崖からロープで下ろして助ける。
その数75人。これは、実話である。

 

阿鼻叫喚の容赦ない戦闘描写に涙……
戦争ってこういうものなんだ。

メル・ギブソンが監督してアカデミー賞にも多数ノミネートされた本作。
まさか、沖縄戦での話とは知らなかっただけに、衝撃だった。

この前田高地での激戦は有名らしく、日本軍は壊滅状態、何万人もの死者を出した。
もちろん、日本軍の死者の方が多い。しかし、アメリカ軍も大打撃を受けた。
日本兵は天皇陛下のために死を名誉のものとし、決して諦めずアメリカ軍に挑んできたからだ。

ものすごいリアルな描写だった。メル・ギブソンという人は「ブレイブハート」でも「パッション」でも容赦ない映像を撮る人である。
本作でも戦闘シーンはCGをほぼ使ってないという。
恐るべし臨場感とド迫力とリアリズム。
頭を撃ち抜かれ、血が飛び散り、足や手が飛び、脳髄が飛び、腸が散乱し……火炎放射器でゴミのように焼き殺される日本兵。
阿鼻叫喚の世界を再現して見せる。
とても観ていられない。そして、観ているうちに泣けてきた。
これ、沖縄戦なんだよ。こんだけ日本人の同胞が殺されたんだよ。
そして殺したんだよ。なにやってんの? なに戦争って?
頭がぐらぐらした。
この愚かなことから学びがあるのだ、とかろうじて感情を抑えたが、冷静には観ていられない。

 

「あと、もう一人だけ助けさせて下さい」
私たちの中には「神」が存在する

そしてそして、皆が撤退した後も、一人残って仲間を助けるドス。
「神様、もう一人だけ、もう一人だけ助けさせてください」と呟き続けながら手を血まみれにして仲間を崖から下ろしていく。
もちろん、神は彼の願いを聞き入れてくれる。
そして、十分がんばったね。もういいよ。と彼を解放してくれるのだ。

ドスは自分を認めなかった上官も助け、傷ついた日本兵も助ける。
ドスの偉業を知り、上官が「すまなかった」と謝るシーンはぶあっと涙が溢れた。
ドスの火事場の馬鹿力とも言える人間技と思えない聖なる救助は奇跡のようだが、それは奇跡ではないのだ。
本来人間は強い信念があれば可能なことなのだ。
そして、人の中には神が存在するのだから、なんでも可能なのだ。
それを私たちはすっかり忘れてしまっている。

メル・ギブソンはカトリックの長老派だったか、厳格なクリスチャンである。
「パッション」もキリストの受難をアラム語で描いた。
彼にとって本作のテーマは描きがいのあるものだったのだろう。
彼の監督としての手腕が見事に発揮された秀作である。
戦場場面のみならず、ドスの幼少期から、恋人との出会いと進展、軍での日々とドラマチックに魅せる。
日本兵の描き方も申し分ない。素晴らしい。
ただ、ドスが信仰に目覚め、頑なに銃を拒否するようになったエピソードが、少々弱いようには思った。

本作は、人の中に潜む神性を感じさせてくれる、スピリチュアルな逸作である。

 

監督 メル・ギブソン
脚本 ロバート・シェンカン アンドリュー・ナイト
出演 アンドリュー・ガーフィールド サム・ワーシントン ルーク・ブレイシー
テリーサ・パーマー ヒューゴ・ウィーヴィング レイチェル・グリフィス ヴィンス・ヴォーン
※139分

※2017年6月24日(土)よりTOHOシネマズ梅田他、全国ロードショー
公式サイト:http://hacksawridge.jp/
配給:キノフィルムズ

© Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

 

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