一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.120 「沈黙-サイレンス-」

主役の宣教師のアンドリュー・ガーフィールド以下、白人の俳優たちがどれも軽い演技にしか見えない中で、日本人の演技は白眉であった。 日本人としてこれは凄く嬉しいことだ。

信仰は誰からも侵されるものではない
棄教を迫られた宣教師の苦悩と悔悟

遠藤周作の原作は十代で読んで大感動、大号泣した。
それをマーティン・スコセッシ監督が映画化したということで、大変楽しみに試写に行った。

しかし、年末の試写で一回のみと言うことで試写室満員! ちょうど私で札止め。
ラッキーだったが、椅子は簡易の丸椅子となった。えっ! 果たして2時間41分、その椅子で耐えられるか⁉︎ と不安になったが、それは杞憂に終わった。

腰は痛かったが、少しもダレることなく、長尺を感じさせない展開の、力のこもった一作だった。

私の前世はキリスト者だったらしく、つい最近分かった前世でも、修道女たちを指導していたそうで、ああ、それで修道女が着る紺色の禁欲的な制服ぽいワンピースが好きなんだな、と腑に落ちたりしていた。

ということもあって、キリスト教関連のことには異様に興味を持ってしまう。
本作も観終わって、日本人のキリスト者が描いた棄教の話を、アメリカ人が解釈して描くとこうなるのか? という少しの違和感も抱え、信仰と、前世について考えさせられるものがあった。

 

日本人俳優の真摯で切実な演技
胸に迫る特筆の素晴らしさ‼︎

話を少し書く。

江戸初期の長崎。キリシタン弾圧が激烈さを増す危険な地へ、ポルトガルから先行していた師を追って、ふたりの宣教師がやってくる。
ふたりを手引きしたのは踏み絵を踏んで後悔しているキチジローというキリスト者だった。

宣教師たちは隠れキリシタンに匿われるが、キチジローの密告によって囚われてしまう。
そして、彼らを匿った隠れキリシタンたちも踏み絵と拷問にさらされ、次々と命を落としていく。
長崎奉行のお上はあらゆる方法で宣教師たちに棄教を迫るのだが……。

淡々と描かれる悲惨な話。
少しも声高ではない静かなトーンの中で、熱く胸に迫ったのが、日本人俳優たちの真摯で切実、誠実な演技だった。
特にキチジロー役の窪塚洋介、隠れキリシタン役の塚本晋也、奉行の通詞役の浅野忠信は素晴らしかった。

主役の宣教師のアンドリュー・ガーフィールド以下、白人の俳優たちがどれも軽い演技にしか見えない中で、日本人の演技は白眉であった。
日本人としてこれは凄く嬉しいことだ。

中でも塚本晋也は、笈田ヨシとともに海の中に据えられた十字架に貼り付けにされ、本当に何度も大波を被っての決死の演技で驚かされた。

何度も踏み絵を踏みながら、その度に懺悔をして生涯宣教師の傍を離れなかった、キチジローを演じた窪塚洋介の悲しみを湛えた眼も忘れられない。

 

本作は監督自身と神との対話だ
冷徹な視点で描かれた神の沈黙

映画を観ながら、あれっ? こんな話だったっけ? と何度も思ってしまった。
何十年も前に読んだ原作だから忘れてるんだろうけど、この違和感はなんだろう? と考えたら、原作にはもっとあった主人公と神との対話が本作にはなかったのだ。

それに原作は宣教師が主人公でなかったはず……?

しかし、決定的な違和は原作がとてもウェットなものだったのが、本作は物凄く乾いていて、冷徹な視点で描かれたものだったと言うことだろう。

それが、スコセッシ監督のキリスト教、また自身の信仰への目線なのだろう。
彼の心の深い部分での、冴え冴えとした信仰が垣間見えたような気もした。

これは、監督と神との対話の映画なのだ。

さて、私自身もとても冷静に本作を観たのだが、先日、専門学校での授業で本作を学生に紹介していた際、なんと、ラストの宣教師の失われなかった信仰について語っていたら、不覚にも嗚咽しそうになって自分でも驚いた。

これは、私が泣いているのか? 私の魂が泣いているのか? 私は当時(前世)、キリスト教を憎みつつ、信仰は捨てることができなかったのではないか……? と思った。

信仰は誰からも侵されるものではない。
今も、私は信仰について日々考えている。

そんな自身の前世について内省させられた作品だったが、普遍的に信仰について各人が思いを馳せられる佳作である。

監督・脚本 マーティン・スコセッシ
脚本 ジェイ・コックス
原作 遠藤周作
出演 アンドリュー・ガーフィールド リーアム・ニーソン アダム・ドライバー
窪塚洋介 浅野忠信 イッセー尾形 塚本晋也 小松菜奈 加瀬亮 笈田ヨシ

161分

※1月21日(土)~全国ロードショー
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