一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.100 「孤独のススメ」

ラストのふたりの姿がまぶしい!! 傍からみたら「ん?」のこんなふたりでも、至福なのだ。他人は関係ない。 観客賞を多数受賞したのが分かる、うらやましいふたりだった。

孤独でいることを極めたら
さあ、殻をぶち破って一歩を踏み出せ!

映画を観て泣く、ということはよくあるのだが、うっくっと我慢して涙が溢れるとか、すーっと静かに涙が頬を伝ったとか、とにかく泣けて泣けて号泣したとか、いつの間にか泣いていたとか、涙の出方にもいろいろある。そんな中で映画のあるセリフでぶあ~っ!! と涙がほとばしるって泣き方はあまりない。

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本作はクライマックスの「ヨハン!!」というセリフで私は「そういうことかぁ!!」と謎が解けて涙腺決壊、ぶわあ~っ!! と涙が飛び散ってその後号泣してしまった。ものすごい上手いタイミング! 本作が長編デビュー作とは思えない監督の才能に大拍手! オランダからやってきた小品ながら、巧みな傑作である。

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さて、お話は最初んっ? なんである。厳格な繰り返しの日々を一人送る初老の男フレッドの元へ、迷子のこれまた初老の男がやってくる。迷子の男テトは話かけても「はい」しか言わず、フレッドのいいつけを守りいつの間にかフレッドの家で暮らすようになる。妻を亡くし、息子も出て行った家で友だちもなくひっそりと暮らしていたフレッドは、このテトとの共同生活で、今まで諦めていたことや、目を背けていたこと、言えなかったことを全てクリアにしていく……。

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偏屈おじさんのセリフに涙腺決壊!
受け入れて許して、人は楽になる

偏屈なおじさんフレッドのところへやってきた変なおじさんテトは、ちょっと記憶喪失気味で人間より動物に近い……まあ、外見はおじさんだが中身は幼児みたいなのだ。顔は哲学者並みにシリアスで苦悩に満ちているのに、ヤギみたいにどこでも「メエーメエー」鳴いたり、フレッドの奥さんのドレスを着たりとギャップが凄い! 大丈夫か? この人? って雰囲気満載だ。
しかし、この幼児男がフレッドを深い孤独から救うのである。
決してゲイものなんかではなく、ふたりの愛の物語なのだ。
途中ゲイフラグが立つ気配があるのだが、それがラストへの伏線で絶妙に涙腺決壊を決行してくれる。詳しくは語れませんが。

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思うに、人は皆孤独だな、としみじみ思う。
テトみたいな男が迷い込んで来たらどうだろう? と考える。私の場合は女なので、テトみたいなおばさんだったら? 私はまだ深い孤独に捕まってはいないので、おばさんを受け入れることはないような気がする。いや、その前に日本じゃ無理だな。でも、楽しいかも……?
フレッドがどんどん変わっていく様がくすぐったくて、ほのかに嬉しい

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人は「楽しむ」ためにこの世に生まれてくる
だから行動することが大事!

人はある程度歳をとると、なかなか自分の殻に閉じこもってしまって、新しい一歩というのを忘れてしまう。しがらみや思い込みや、老いの疲れや、習慣で、自分を変えようとはしない。人生は基本毎日毎日同じことの繰り返しで、そこからの学びが大半を占める。しかし、人はどうしても現状維持を求め守りに入る。何もしないとどんどん心も体も固まって暗くなっていく。それが人間という生き物の特徴だ。
本作はきっかけがあっても、自分から動かないと「楽しい時間」は得られないということを教えてくれる。
人間はこの世を「楽しむ」ために生まれてくるのだから。
「苦しみ」も「悲しみ」も楽しむためにだ。死ぬまで「楽しい時間」を追い求めることが大切なのだ。

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ラストのふたりの姿がまぶしい!!
傍からみたら「ん?」のこんなふたりでも、至福なのだ。他人は関係ない。
観客賞を多数受賞したのが分かる、うらやましいふたりだった。

■監督・脚本 ディーデリク・エビンゲ
■出演 トン・カス ルネ・ファント・ホフ ポーギー・フランセン
アリアーヌ・シュルター アレックス・クラーセン
■86分

※4月9日(土)~全国ロードショー

 

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