人気アプリ作家・西麻布よしこが挑む! 平成二十五年訳 『源氏物語』紫式部 (十七)

平安時代に誕生した名作『源氏物語』(げんじものがたり)が、平成25年度版訳で甦ります!

桐壺 第三章 光る源氏の物語 第六段 源氏元服(十二歳) (二)

源氏の加冠役の大臣には、皇女である妻との間に、大切に育てられている一人娘がいらっしゃいました。東宮からのお声もあったのですが、躊躇されていたのは、源氏のほうへ姫君を差し上げようというお気持ちがあったからです。

内裏にて帝のお気持ちを確認してみたところ、「ならば、この折に後見人もいないようなので、添い寝でもさせてはどうか」と促してくださり、大臣もそのようにお考えになっていたのです。

元服の儀では、人々がご休息所へと退出し、酒などが振舞われるとき、親王方々のお席の末席に、源氏はお座りになりました。
大臣が乗り気で姫君について申し上げたのですが、源氏の君はこれにかんして慎ましい年ごろのため、どちらともお返事はいただけませんでした。

内侍が、大臣へ、帝からの文書を届けにきました。
御前に参られるようにとのことでしたので、大臣は帝の御前へと参られました。命婦たちが御前から運び、ご祝儀の品物を、大臣へと運びました。
白い大袿に御衣装一領は、通常どおりの品物でした。

大臣が酒の盃を賜るとき、帝がさりげなく、

いときなき 初元結ひに 長き世を 契る心は 結びこめつや
(まだ早い年頃で、元服での初めての縁談だが、長い世を共に過ごす約束を、固めたのか)

とお詠みになり、そのお心遣いで、大臣を驚かせたまいました。

大臣は、
結びつる 心も深き 元結ひに 濃き紫の 色し褪せずは
(紫の高貴な色があせることがなければ、元服の縁談は、絆も心も深く繋がっていくでしょう)

と返歌を贈り、清涼殿の階段を下って、拝礼されました。

このとき大臣は、帝から左馬寮の馬と蔵人所の鷹を賜りたまいました。
階段に並んだ順に、親王や上達部たちは、お祝儀の品々を賜りたまいました。

その日の御前の折り詰めのお料理や、籠詰めのものなどは、帝のご命令によって右大臣によりあつらえられたものでした。
一般の官吏への食事や、ご祝儀を入れるからびつなど、場所がふさがるほどの品物の数々は、東宮の元服よりも勝っていました。

確かに、源氏の君の元服は、かえって限りなく威厳であったのです。

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