一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.84 「ナイトクローラー」

本作は、良く出来ているし、面白い。しかし、ものすごい問題作である。 さて、ここから何を学ばせてもらうか? 

アメリカの膿んだ社会をリアルに描く問題作!
自らの倫理観を試される怖さと学び

ゾッとさせられる作品である。
ラストシーンに観客は「ええっ……!?」と背筋が寒くなる。
監督は何の解決も意見もメッセージも提示せず、「これが現実ですよ。怖いでしょ」と薄ら笑いを浮かべているだけのように映画は終わる。

このとんでもない現代のモンスターのような倫理観ゼロの主人公のとった行動は、おぞましいものである。しかし、その狂気の行動に私は夢中になった。

始終「ええーっ! お前ダメだろっそんなことしちゃあ!!」「なんて、なんて、嫌な奴!!」「クズよ、あんた!」と突っ込みを入れながらも、いつもお尻や腰が痛くなる試写室なのに、そんなこと全てぶっ飛んで気が散ること皆無状態で約2時間、息を詰めて画面に釘付けだった。
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「嫌だ嫌だ、やめてぇ~!」と思いながら目が離せないんである。
これぞ面白い映画。観客を一秒たりとも退屈させないと言う意味では。

しかし、しばし毒にあてられて呆然となるし、自らの倫理観を問われる羽目になる。また、アメリカという社会の腐った部分、膿んだ部分を見せられて怖くなる。でも、これは日本でもありえることなのだ。いや、もうあるか。もちろん、世界でもあることなのだろう……悲しいことに。

 

頭脳明晰で狡猾な主人公
彼はすべてをコントロールしてしまう!

主人公のルイスはネットとテレビが友だちで、金網を盗んで工場に売ったり、自転車を盗んだりのコソ泥だ。しかし自尊心と頭の良さは人一倍で、何か仕事をしたいとは思っている。

ある夜、交通事故現場を通りかかり、事故や事件をスクープする報道パパラッチの仕事を知る。通称ナイトクローラーというその仕事を始めたルイスは、次々刺激的な映像をものにして、地元のテレビ局に高額で売ることに成功する。しかし、ディレクターの要求に答えるために、ルイスの行動はどんどんエスカレートしていき、やってはいけないことまでするようになり……。

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今、アメリカの若者に仕事はほとんどないそうである。高学歴のエリートはいざ知らず、中流(中流自体が解体してる)、貧困層は皆軍隊に行くしかないと言う。このルイスみたいな若者も、そんな社会の中で生まれたモンスターなのだろう。しかし、これだけ狡猾で頭が良ければ他のところでも成功しそうだが、彼には何が足りないのか?

それは心か、他人への敬意か。彼にとって他人はゴミみたいだ。すべて自分が成功するための道具。コントロールしようとする。

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特に女性ディレクターに、映像の見返りに体を要求する場面で自分の意見をまくし立てる異常さと反論できないような周到さにはムカついた。同時に女性ディレクターには断ることを期待したが、彼女もしょせん彼と似たもの同士か、断るすべを持たないのである。彼女も視聴率命なのだ。

しかし、この傲慢な男の手練手管はすべて成功する。すべてコントロールできるのだ。こんなことあっていいの? とこちらは不安になる。モンスターは堕天使のように最強なのだ。だからこの映画は観てると頭がグラグラしてしまう。
「どうしようっ」って。

 

この作品から何を学ぶか?
何がまともなのか、自分自身に聞いてみる

先日あるメルマガを読んでいたら、「壁を乗り越えるにはどうすればいいか」ということが書いてあった。
それは、何か起こったことに関して、周りに文句を言うとか、他人のせいにするのではなくて「そこから何を学ばせてもらうんですか?」と自分で問うてみる。真剣に問うと、起こったことなんてどうでも良くなるらしい。

 

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本作は、良く出来ているし、面白い。しかし、ものすごい問題作である。
さて、ここから何を学ばせてもらうか?

私は前述したが、私自身の倫理観を問い、再確認した。ルイスのやったこれはやってはいけない。これもやってはいけない。これはやってもいい。自分に照らし合わせて彼のとった行動を考えた。その結果、私はとてもまともな人間だと分かった。
しかし、何がまともかどうか分からなくなっているのが現代で、本作はそんな現代を正直にリアルにあぶりだした秀作と言える。

本作から「何を学ばせてもらう」か……。格好の「学ぶ」素材を扱っている作品である。

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■8月22日(土)~全国ロードショー

■監督・脚本 ダン・ギルロイ
■出演 ジェイク・ギレンホール レネ・ルッソ リズ・アーメッド ビル・パクストン
■118分