一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.80 「アリスのままで」

50歳の若さで若年性アルツハイマー病となったアリス。順調な人生は不安と焦りと諦めが入り交じり始める。

若年性アルツハイマーになった大学教授
すべてを忘れても魂の学びはある

繊細な映画である。
50歳の若さで若年性アルツハイマー病となったアリス。
言語学者として、大学教授として「知」の世界に生きてきた彼女が、どんどんいろんなことを忘れていって、いろんなことが出来なくなっていく。その過程を丁寧に細かくアリスの視点で描かれている。
私たちは、今まで全て順調な人生だったかに見えるアリスの崩壊を、じわじわと見せられることになり、彼女の不安と悲しみと焦りと諦めを我がことのように感じる。
まるで、殺人を犯した主人公の日々を見せられているような緊張感がある。
病にかかったことを家族に知られないようにする。
次にはどう家族に告白しようか悩む。
そして、家族とどう生きていこうかと模索する。
家族の対応。
家族と共にアリスはどんどん進む病状に立ち向かうのだが、その姿はやはり、「哀れ」でしかない。病状は止められない。

『アリスのままで』サブ1_mail

アリスをリアルに演じたジュリアン・ムーアが本年度のアカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞した。
5度目のノミネートで初受賞。
彼女が初めてスクリーンに登場した時から「パタリロ」のあの髪の長いキャラクターにしか見えなくて、あまり好きな役者ではなかったのだが、本作での計算された円熟の演技に思わず拍手を送りたくなる。
実年齢も50歳すぎでアリスとかぶるし、その肉が垂れて緩んできた体がまたリアルで、なんとも言えない味わいがある。

アリスの造形が素晴らしい!
特に衣装や普段の様子が逐一細かく描かれる

『アリスのままで』サブ2_mail

私が面白いと思ったのは、アリスの大学教授としての様子だ。
彼女の仕事場での品のいい服装。靴。いつも持っている大きな鞄と布製のバッグ。
たぶん布のバッグには授業の資料が入ってたり、スーパーでの買い物が入ってたりするのだろう。
彼女はふたつのバッグをいつも肩にかけている。
そして授業の始め方。
私も講師をしているので、すごくそういうところが目について興味深い。
また、服装は普段の家でのラフな格好や、家族の集まりでの黒いワンピースなど、とてもお洒落で洗練されている。そして若々しい。
病状が進んで娘のことが分からなくなっても服は若々しいのである。日本とは違うなと思う。
病状の進み具合によって衣装やメイク、髪型は細心の注意を払ったそうだが、それらの造形は素晴らしいものがある。

アルツハイマーになることの意味
生きてさえいたら必ず喜びはある、と信じる

『アリスのままで』サブ3_mail

さて、ここで若くしてアルツハイマーになるということをスピリチュアル的に考えたい。
認知症などの病気は肉体と魂がズレていると言われるが、認知症などになるということも、本人が選んで生まれてきているわけである。
しかし、それには必ず意味がある。
その病になることによって、「学ぶこと」を魂は計画しているのだ。

アリスも病を患ったことで、上手くいってなかった次女との関係が改善した。
しかし、最愛で最強の協力者だと思っていた夫は去っていく。
病気の症状は進んでも、命ある限りは生きていかなくてはならない。
アリスを支えることで次女の人生は深いものになるだろう。そのためにアリスは病にかかったのかもしれない。

しかし、若年性アルツハイマーになる人というのは、甘いものが好きな人が多いらしいのだが、アリスもアイスクリームが好きで何度かアイスを食べるシーンが挿入されていた。
甘いものだけではなく、食べるものや電磁波や薬の類いやアルミはアルツハイマーにすごく影響があるそうだ。
やはり、食べ物や自分の周りの環境に対して、今更ながら無関心ではいられないと改めて思わせられる。

病になる時はなる。
しかし、病を患っても生きてさえいれば、なにか必ず喜びや希望はあるものであると私は信じている。
たとえ無いように見えても、魂の修行にはなっているのである。
そう考えたら、病は怖くないのだ。

アリスもこれから治るかもしれないじゃない。
治らず「哀れ」なまま死んでいくことも彼女の今生の人生の姿である。

そんなことをしみじみ静かに考えさせてくれる繊細な秀作である。

『アリスのままで』サブ4_mail

■監督・脚色 リチャード・グラッツァー ウォッシュ・ウェストモアランド
■原作 リサ・ジェノヴァ
■出演 ジュリアン・ムーア クリステン・スチュワート アレック・ボールドウィン ケイト・ボスワース ハンター・パリッシュ
■101分

6月27日(土)~全国ロードショー

アリスのままで
シネ・リーブル梅田/なんばパークスシネマ/MOVIX京都/神戸国際松竹、他
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