健康で幸福な人生を生きるとはーアーユルヴェーダ伝道師 Vol.3ー

サムスーカラ ―トラウマは習慣で変化する―

このコラムを読んでくださっている皆様は「ヴァータ、ピッタ、カファ」という言葉をご存じかもしれません。ヴァータの増悪を改善するためには温かくて水分が多い食事をし、規則正しい生活を心がけようとか、ピッタを増やさないためには冷性の食品を摂りましょうとか、カファを減らすためには乳製品を控えて運動をしようとか、そういう話はアーユルヴェーダ関連のサイトやブログでご覧になったことがあるかもしれません。そ根本には体や心のバランスをとることが健康を維持する方法だという考え方があります

アーユルヴェーダはバランス=ホメオスタシスを
重視している科学

アーユルヴェーダを体と心のレベルで捉えるなら(魂のレベルは脇に置くとしましょう)、アーユルヴェーダはホメオスタシスの科学と言えるかもしれません。ホメオスタシスとは生体の内部環境を一定の状態に保ちつづけようとする傾向のことです。 体温や血圧が一定に保たれているのも、傷が自然に治るのも、生体のホメオスタシスが働いているからです。体の内部バランスが崩れた場合、もとのバランスに戻ろうとする働きがホメオスタシスです。内部バランスが崩れた状態が長く続くと、自然にはもとに戻らなくなります。そこから体調不良や病気が始まります。アーユルヴェーダはバランス=ホメオスタシスを重視している科学なのです。

脳機能学者の苫米地英人さんによると、脳においてもホメオスタシスが働いています。万年お金がない人が宝くじで1億円を当てたとします。さぞかしハッピーだろうと思いきや、いつもお金がない状態に慣れてしまっている本人にとっては決して居心地のいい状態ではありません。脳はその1億円をさっさと使ってしまおうとします。江戸っ子の「宵越しの金は持たない」はホメオスタシスだったのかもしれません。ところが、突然景気がよくなり、一千万円の貯金ができたとします。その貯金が長期化すると、その状態が心地よくなり、貯金を持っている状態にホメオスタシスが働くことになります。脳と心における「心地よいホメオスタシスゾーン」が「お金がない」から「貯金がある」に変わったのです。

サムスーカラ  ―トラウマは習慣で変化する―

アーユルヴェーダにはホメオスタシスに似た考え方があります。サムスカーラです。サムスカーラは記憶や印象や習慣のことです。たとえば、幼児期に親から暴力を受けた経験はサムスカーラとして記憶に残り、やがて潜在意識に印象として刻まれます。それがトラウマです。人がなかなかトラウマから抜け出せないのは、脳がそうしたネガティブなサムスカーラを「心地よいホメオスタシスゾーン」と感じているからかもしれません。しかし、さきほどのお金の話のように、心地よいホメオスタシスゾーン」は変えることができます。 同じ志を持つ人達と集ったり、困っている人を助けたり、友達と明るく笑いあうことを習慣化すれば、こうしたポジティブなサムスカーラは脳のなかに印象として刻み込まれ、ネガティブなサムスカーラを駆逐します。困難な事態に直面したとしても、良いホメオスタシスが働き、良い状態に戻ろうとする力が働きます。だからアーユルヴェーダは、子供のときから良いサムスカーラをつくることが大切だと言っています。アーユルヴェーダは良いサムスカーラをつくるための一つの方法なのです