一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.55 「ショート・ターム」

傷ついた子どもたちの更正施設
そこで得られなかった愛を求める人々

タイトルの「ショート・ターム」とはティーンのためのグループホーム(更正施設)の名前。家庭問題を抱え心に傷を持つティーンたちが、一定期間ここで過ごし傷を癒す。映画は彼らの面倒を見るまだ若いケア・マネージャー自身の問題と、施設にやってきた少女との関わりを通して彼女が再起していく過程を描く。
施設にはいろんな事情を抱えた子どもたちが入所している。パニックになって脱走を繰り返す少年。18歳を迎え、施設を出ることに不安を抱えた繊細な少年。 そんな彼らに丸ごとぶつかっていくスタッフたち。日々闘いと苦悶。かなり悲壮だけど、ユーモアは忘れない。
世界中で30以上の賞を受賞し、評価の高い本作。
話自体はよくある話で、新味はない。

しかし、面白いな、と思った点が2箇所。
まず、入所してきた問題あり、かたくな少女が、ケアマネと心を通わせていく過程。絵を描くのが好きな少女の横で「私も一緒に描いていい?」とふたりベッドに座って互いに絵を描きあう。そこでケアマネは自分のひどい母親の話をなにげなくする。それを黙って聞いている少女。
ただ、よりそう。黙ってそばにいる。そして自分の傷をしゃべる。そうすることで、他人は少しずつ心を開いてくれる。でも、まず最初は自分から開かなくてはならない。このケアマネが少女との距離を詰めていく様子がちょっと息を潜める感じで良い。そして少女が心を開いていく過程もドキドキ見てて嬉しい。

少女が話す「友達のいないタコの物語」
本作の一番の見所!

もうひとつ。
少女の誕生日に父親が面会に来ず、悲しみと怒りをぶちまける少女によりそうケアマネ。なんとか落ち着いた少女は彼女に「物語を作ったの」と自分が作った話を聞かせる。この物語が素晴らしいのだ! 友達がいないタコの話なのだが、この話だけで私は痛く感動してしまった。そのまま絵本に出来そうな深い含みがあり、またこの上なく悲しい物語。私はこの映画の一番の見所はこのタコの話だと思う。

結局、傷ついた少女は以外にタフで、ケアマネの方がいつまでも過去の傷から抜け出せないでいるのが切ない。こういう風に家庭で愛情を得られないまま大人になって、その愛情をいつまでも捜し求め、またそのためにうまく生きていくことができない大人がなんと多いことか。それはアメリカだけの問題じゃなくて日本も同様だ。
こういう施設も日本はまだまだ少ないだろう。でも、今後もっともっと必要とされるはず。悲しいことだけど。

愛されず、うまく大人になれない子どもたち
でも、大丈夫だよっ! きっと

本作を観ながら、私は「胎内記憶研究」の池川明先生のことを思い出していた。
「赤ちゃんが胎内にいるときから話かけて、生まれたらすぐに胸に抱きしめて、3歳まではとにかく何度も抱きしめて、大事なんだよ、愛してるよ、と自分が尊重され、必要とされていることを体に染み込ませることです。そうしないと、その後その子の人生がうまくいかなくなることがあります」。

うまくいかなくなった子どもたち。でも、再生のきっかけはいつ、どこからやってくるか分からない。希望はいつもある。
そのことを信じさせてくれるラストだ。
 
 
■11/15(土)より、TOHOシネマズ梅田/TOHOシネマズなんば/TOHOシネマズ二条にてロードショー!(近日)元町映画館にて
■監督・脚本 デスティン・ダニエル・クレットン
■出演 ブリー・ラーソン ジョン・ギャラガー・Jr.
    ケイトリン・ディーヴァー ラミ・マレック キース・スタンフィールド
■97分

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