わたしたちの目標、人間としての責務とは

「自己実現」には、「利己的自己実現」と「利他的自己実現」があるということを以前この連載コラムで述べ、いい格好をしたいだけの、脆いと思っている自分を守るための自己実現は利己的であり、欠落した自分をどうにか満たそうとする、怖れに基づいた在り方だと前回書きましたが、今回は「利他的自己実現」について掘り下げてみたいと思います。

それには、物理学者アルバート・アインシュタインの言葉が役に立ちます。

「物質的充足を満足させようとする気持ちをできるだけ取り除いてはじめて、有意義で調和のとれた人生を送ることができます。わたしたちが目標にすべきことは、社会の精神的価値を高めることです。」

「わたしたちは、人々に奉仕するために最善を尽くさなければなりません。それこそが人間としての尊い責務です。」

利他的な生き方を目指し、その時できることを精一杯やっていくことは、何かを犠牲にする生き方ではありません。むしろ、人としてごく自然な――心から求めている幸せな在り方なのだと思います。

「わたし」という人間を評価してほしい、認めてほしいと思っているうちは――人と比べて優越感に浸っていたい、上から人を見下ろしたい、特別な存在として称賛されたい、誰よりも優れていたいという欲望を拭えず、自分の価値というものが、誰かに「勝つ」ことによって確かなものになるのだと錯覚しているうちは――、
「利他的に生きる」というのは「キレイごと」で、自己犠牲的で胡散臭く、「聖人君子じゃあるまいしできるわけがない」生き方にしか思えないかもしれません。

けれどもわたしたちは、誰かに勝つこと、目覚しい成果を上げること、経済的に成功することそのものによって真の幸福を得ることはけっしてできないのです。

「本当に価値のあるものは、野心や義務感からではなく、人間に対する愛情や献身から生まれます。」

「人の真の価値は、受け取ることではなく、与えることにあります。」

（アインシュタイン）

脚光を浴びること、一目置かれること、優秀だと高く評価されることによってではなく、見返りを求めずただ与えるその姿勢に、人の真の価値が認められるのでしょう。
そして奉仕、献身といった在り方は、努力して身につけるものではなく、人間に本来備わっているものであり、だからこそどのような人にも、生まれながらにして価値があるのです。
いい子・いい人でい続けることや、良い成績を残すことによって価値がついたり増えたりするのではなく。

神秘的な調べに合わせて

「利他的自己実現」については、以前このように定義しました。「自分の魂が望む生き方で、心から幸福を感じられる活動をしており、それがその人個人にとどまらず、周囲の関わる人たちにも喜びをもたらす在り方」だと。

「自分」というものを犠牲にして、あらゆることに我慢し、何ひとつ求めない生き方をしていくことではないのです。
「利他的自己実現」において、「自分」を犠牲にする、ということは起こり得ません。なぜなら、「自分」と「他者」を分離されたものと見て、これが自分と思っているその「わたし」をキープする必要などどこにもないからです。

ガイダンスにのみ従う、ゆだねて生きるその人生において、「わたしとはこうだ」と主張しなければならないことは少しもありません。
「これがわたし」だと境界線を引いて保っていたい「自分」というのは、「エゴ（自我）」でしかないし、そうしたくなるのには、エゴ特有の、人生をコントロールしていたいという思いがあるからだと言えます。

アインシュタインは言います。

「すべてのものは、わたしたちにはコントロールできない力に支配されている。それは星にとっても虫にとっても同じこと。人間も植物も宇宙の塵もすべて、はるかかなたの演奏者の奏でる神秘的な調べに合わせて踊っているのだ。」

そうであるならば、「はるかかなたの演奏者」に身をゆだねていたい、神秘的な調べに合わせて、そのリズムから逸脱しないように、抗うことのないように踊りたいと思うばかりです。

「はるかかなたの演奏者」はきっと、わたしたちが「社会の精神的価値を高める」ことができるように、助け合い支え合って、本当に価値あるものを分かち合うことができるように、わたしたちをやさしく美しい音色で導いてくれているのでしょう。

人生とは、コントロールするために与えられたものではなくて、真に価値のある使い方をしていただくために、進んで明け渡すものなのだと思います。
わたしたちがすることは、神秘的な調べを生み出すことではなく、調べに合わせて踊ることなのですから。

（※『アインシュタイン　ひらめきの言葉』ディスカヴァー・トゥエンティワンより）

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