一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.47 「めぐり逢わせのお弁当」

一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.47 「めぐり逢わせのお弁当」

誤配されたお弁当がきっかけで
始まる文通・・・そして恋

おもしろいアイデアだと思う。
夫へと配達されたはずの弁当が誤配され他の男の元へ届く。それをきっかけに
主婦イラと定年間近いやもめ男サージャンの間でお弁当を介しての文通が始まる・・・。
インドではダッバーワーラーという弁当配達人がいて、家で作った出来たての弁当をオフィスに届けてくれる。しかも誤配送は600万分の1の確率でしか起こらないという驚異のシステムらしい。600万分の1の確率で起こった恋物語は、しっとりと情緒豊かで繊細で、歌あり踊りありアクションありの従来のインド映画とは一線を画す仕上がりだ。

ラストは「ああ~っ」とこの不器用な恋の行方に身もだえしてしまった。
会わないで手紙だけ。韓国映画の「イルマーレ」を思い出した。縛りがあると観てる方は歯がゆく、心地よく盛り上がるのだ。

寂しい心を互いに抱えるふたり
サージャンの描写に人生の「詩」を感じる

最近冷めてきた夫の愛情を心のこもったお弁当で取り戻そうとするイラと、妻を亡くし、定年も間近で人生の楽しみもない寂しい日々を過ごすサージャン。ふたりとも、満たされない想いを胸に抱いている。それを埋めるような、心情を吐露した互いの手紙がいつしか彼らの生きがいとなる。頑固で仕事一筋で意地の悪いところもある初老のサージャンが、文通によって後輩や近所の子どもへの態度が変わっていく様が観ていて嬉しくなる。もうこれから楽しみはなにもない、と思っていた男に再び「春」が訪れたのだ。しかし彼は躊躇する。残りの人生でジャンプすることを。
一方イラは夫との生活に希望がなくなり、失意の中でサージャンの言葉に助けられる。そして、イラはまだ若い分、積極的に飛ぼうとするのだが・・・。

サージャンの孤独の描写がハッとするほど哀しくリアルだ。
隣の家のにぎやかな夕食の様子を彼は自分の家のベランダからじっと見ていて、それに気づいた隣家の子どもに窓を閉められたりする。一人の夕食はデリで買ったビニール袋に入ったカレー。おっくうそうにナンを皿に広げる。男の孤食ってほんと絵にならない。寂しさ全開だ。哀れでさえある。

この映画はそういうサージャンの描写や言葉に深い「詩」がある。生きていくってこういうことだよね、と深く教えられる。ほんとに繊細で、感嘆しながら観ていた。
そう、インドはサタジット・レイやタゴールを輩出した国であるのだ、と今更ながらインドという国の偉大さを思い出した。こんな素晴らしい監督が出てきても不思議ではないのだ。

人はいくつになっても一歩踏み出せばいい
きっと望んだ場所に着くだろう

この映画を観終わって、猛烈にチキンカレーが食べたくなって家に帰ってグリーンカレーを作った。が、まとめじゃなくて(笑)、この映画で何度か出てくる言葉「人は間違った電車に乗っても正しい場所に着く」。そう、人はいくつになっても変われるし、飛べるのだ。一歩、一歩だけ、踏み出せばいい。ちゃんとその一歩は正しい、望んだ場所に着くことだろう。
生きる勇気をもらえる映画だった。

監督・脚本 リテーシュ・バトラ
出演 イルファーン・カーン ニムラト・カウル ナワーズッディーン・シッディーキー デンジル・スミス
■105分

『めぐり逢わせのお弁当』
8/16公開 シネ・リーブル梅田、京都シネマにて
(8/30公開 元町映画館、大津アレックスシネマにて)
配給:ロングライド
© AKFPL, ARTE France Cinéma, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm—2013