中村うさぎさんエッセイ 「死から生への逆さま巡礼」 PART.1

よもやの入院。心肺停止。一瞬先は闇だった!!

異変を感じたのは、去年の7月頃だった。ちょうど1年くらい前のことである。
体力が極端に落ちて、少し歩いだだけでも激しく息切れするようになり、しかしそれでも「夏バテかなぁ」などと呑気に考えていた私は、病院なんぞに行く気はさらさらなかった。が、友人の医師から強く勧められて、ようやく重い腰を上げて近所の大学病院に足を運んだのが、忘れもしない翌月の8月15日。すると「とりあえず検査するので入院しましょう」という話になり、急遽、翌日から入院する羽目になったのである。

まさか入院なんて事態になるとは思ってなかったので驚いたが、それでも「検査入院なんだから数日で帰れるんだろう」などとタカを括っていたら、なんと入院はそれから3か月半にも及び、しかもその間に3回も死にかけた。

それまでは体力が低下していたとはいえ自分の脚で立って歩いていたのに、入院して一週間ほどで脚が立たなくなって車椅子状態となり、手足が突っ張り痙攣して全身に激痛が走るという、さすがにボンクラな私でも「これはもう、ただごとじゃないぞ」と危機感を覚えるほどの病状となったのである。そして、あれよあれよという間に呼吸停止だの心肺停止だのと、三回も続けざまに死にかけたという次第だ。本当に、人生というものは、何が起こるかわからない。


(写真)中村うさぎさんブログ「うさぎ的日常日記」
2013年10月3日「10月3日木曜日」より


(写真)中村うさぎさんブログ「うさぎ的日常日記」
2014年3月4日「だいぶ、しっかりと立てる様になったわ!」より

 

死がいつどんな形でやって来るかは誰にもわからない

現在は退院して自宅で暮らしているものの、相変わらずの車椅子生活で、夫の介護がなければどこにも行けない。自分がこんな状態になるなんて、つい1年ほど前の私には予想もつかなかった。ただの夏バテだと思っていたものが、じつは原因不明の(いまだに病名すら確定してない)神経の病で、しかも死に到るほどのものであったなどと、いったい誰が想像できるだろう?

だが、これが私の現状なのである。自分の脚で立つこともままならず、いつまた唐突に呼吸や心肺が停止するかもわからない。そして今度こそ、本当に死んでしまうかもしれないのだ。

死に対する恐怖は、特にない。ただ、人間というものがいかに無力なものかということを、日々噛みしめている私である。我々は自分の身体も命もコントロールできない。いずれ死ぬ運命にあることはわかっているが、それがいつどんな形でやって来るかは誰にもわからないし、そこに変更を加えたり押しとどめたりすることもできない。我々に与えられた自由は、限られた「生」をどのように生きるか、という、ただそれだけのことなのだ。

だが、たったそれだけの「自由」が、どんなに我々に勇気を与えてくれることだろうか。どのように生きるかを選択することが、どんなに我々の生を煌めかせることだろうか。この「選択の自由」は確かに痛みや苦しみを生むが、同時に生きる意味をも我々に与えてくれるのである。

諸君、これが今のところ私の辿り着いた結論だ。短く限られた自由だからこそ、我々はそれを最大限に行使するのだ。それが「生きる」ということなのではないだろうか?

小説家・エッセイスト 中村うさぎ

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