福島に生きる、東電に翻弄された四世代の家族が描く物語~「あいときぼうのまち」

福島に生き、東電がいつも側にあった
七十年に渡る日本の歩みを描いた愛と希望の物語

敗戦間近の1945年(昭和20年)4月、福島県石川町の山奥で天然ウランの採掘が行われていたことを知る人はあまりいない。もちろん、原子爆弾を作るためのウランだが、その採掘は学徒動員の中学生によるものだった。しかし、5月の空襲で、原爆を研究する早稲田の理化学研究所は焼け、その計画は事実上頓挫した。それでも、彼らは敗戦まで来る日も来る日もウランを掘り続けた。自分たちが何を探しているのか、知らぬままに――。

東京オリンピックの二年後の1966年(昭和41年)、福島県双葉郡は揺れていた。原発建設を巡って、賛成派と反対派に町が二分され、揉めていたのだ。反対派の理由は「原発は危険だから」ではなく、「住んでいる土地を奪われたくない」から、というものだった。やがて、反対派も「これで出稼ぎに行かなくて済みますよ」という説得に応じ、賛成派へと転じていった。ウラン採掘をしていた少年は大人になり、どうしても原発建設に賛成とは言えず、町の人間から孤立し、酒に溺れ、家族はバラバラになっていく。

2011年、その娘は小さいながらも幸せな家庭を作り、還暦を迎えていた。そこに現れる少女時代の恋人。男は原発労働者だった息子を癌で失ったばかりだった。女は男の心の穴を埋めるために体を投げ出す。しかし、やがてそれは女の孫娘の知るところとなる。孫娘はそれをどうしても赦すことができず――。
そして、2011年3月11日――。
津波で祖母を失った少女は、それを自分のせいだと思い込み、自らを傷つける。
世間が3.11を忘れても、少女は忘れることができない。少女は自らを赦すことができるのか。すべてを失った家族は再生することができるのか。

怒りをこめて振り返れ、あの時の事を!!
監督と脚本家が渾身の力を込めて描く鎮魂の物語

監督は福島県出身で、脚本家の菅乃廣。本作が監督デビュー作となる。20数年前、死が迫っていた父親が呟いたひと言「この奇病は昔原発で浴びた放射能が原因かもしれない」をきっかけに、いつか原発を描こうと思っていた菅乃は、3.11でその思いを新たにする。資金集めからキャスティング、スタッフィングまで、この映画は監督自らがかいた汗と執念の結晶である。切れば血が吹き出るような演出は、福島県出身でなければ出来なかったであろう。そういう意味でも、本作は他の3.11映画と決定的に違っている。

脚本は、昨年『戦争と一人の女』で監督デビューも果たした井上淳一。四時代にわたる家族のドラマを錯綜させ、交錯させ、奇跡のラストへと収斂させていくシナリオは見事という他ない。井上は、ノンフィクションや報道では東電と名指しできるのに、フィクションでは何故できないのかと疑問を感じこのシナリオを書いたという。この壮大なドラマの奥には、震災からたった三年で全て忘れ去り、また新たに始めようとしているこの国への怒りが静かにたぎっている。

撮影もまた福島県出身である鍋島淳裕(『ヘブンズ・ストーリー』『軽蔑』『戦争と一人の女』など)。鍋島の福島を見つめる目もやはり、あたたかく、切ない。
彼らが描く、福島の過去、現在、そして、未来。本年度、最も目が離せない一本であること間違いない。

「あいときぼうのまち」
2014年6月21日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
http://www.u-picc.com/aitokibou/

出演:夏樹陽子 勝野 洋 千葉美紅 黒田耕平 雑賀克郎 安藤麻吹 わかばかなめ 大谷亮介 / 大池容子 伊藤大翔 大島葉子 半海一晃 名倉右喬 草野とおる あかつ 沖 正人 / 杉山裕右 里見瑤子 笠 兼三 なすび(声の出演) 瀬田 直

製作・エグゼクティブプロデューサー:小林直之
製作・プロデューサー:倉谷宣緒
監督:菅乃 廣
脚本:井上淳一
撮影監督:鍋島淳裕(J.S.C)
照明:三重野聖一郎
録音:土屋和之
美術:鈴木伸二郎
衣装:佐藤真澄
編集:蛭田智子
音楽:榊原 大
音響効果:丹 雄二
監督補・VFXスーパーバイザー:石井良和
スタイリスト:菅原香穂梨
ヘアメイク:石野一美
VFX:マリンポスト
製作:「あいときぼうのまち」映画製作プロジェクト
オープニング曲:「千のナイフ(作曲 坂本龍一)」
挿入歌:「咲きましょう、咲かせましょう(唄 夏樹陽子)」
撮影協力:いわきフィルム・コミッション協議会 一般社団法人いわき観光まちづくりビューロー
配給・宣伝:太秦
【2013年/日本/カラー/DCP/ドルビー5.1ch/126分】
Ⓒ「あいときぼうのまち」映画製作プロジェクト
※この映画による収益の一部は、福島第一原発事故の被害救済に役立てます