一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.40 『罪の手ざわり』

中国の鬼才ジャ・ジャンクー最新作
現代中国の震撼事件を大胆に脚色

観終わって、「むずかしい映画だ……」と思った。
現代の中国が抱える問題を四つのエピソードで描く。
描かれる事件は実際にここ何年かで中国で起こったものだ。それを監督が大幅に創作、脚色している。

ひとつは村の汚職事件に憤った男が起こした猟銃による連続射殺事件。ひとつは映画冒頭で男三人を撃ち殺した男がいとも簡単に強盗を繰り返す話。次は風俗サウナの受付で働く女が売春を強要され、あまりのしつこさに思い余ってその客を刺殺した事件。そして、工場でヘマをして高級ナイトクラブで働くようになった青年が、そこで失恋し親からも金を無心されあっさり自殺してしまう話。

どれも血を見る悲惨な話である。時折挿入される京劇の舞台が意味深なのだが、そのセリフの意味など深いところまでは理解できない。そしてラストシーンも「……?」なのだけど、ゾクッとさせられる面白さがある。

腐りゆく中国、臭気に覚醒させられる
衝撃的なアート作

観ている間ずっとドキドキ緊張感が漂うホラー映画みたいで、次にとんでもない怖いものを見せられる。その怖いものって、人間の所業なんだけど、幽霊より生霊の方が怖いっていうけれど、まさにこの映画では業の深い人間が箍が外れていく様子を描いていて凄まじく怖い。

今の中国は高度経済成長期に入って急に豊かになって、さまざまな問題が噴出してきている。人々の不満が溜まりに溜まっているのは日本も同じだが、日本はほぼ腐っている腐乱状態だけど、中国はこれから徐々に腐り始めるだけに、劇的で衝撃的だ。なんかワイルド。農村部は洗練とかない感じだもんね。荒々しく盛大に腐る。その臭気に覚醒させられるようなところがある作品とでも言おうか。

ちょっと最近ではお目にかかれないような、フランス映画か、中国映画かしかないようなアート作品だと思う。少し前はこんなアート系の台湾映画や中国映画はたくさんあったんだけどな……。

目を背けたくなるような中国の暗部から
学ぶことは多い

さて、ジャ・ジャンクー監督は、本作を現代中国についての武侠映画だと言うが、風俗サウナで働く三話目のヒロインの珍しい髪型や、客をナイフで刺すシーンの芝居がかったアクションが「??」だったのだけど、キン・フー監督の「侠女」を真似ていると知って納得。「侠女」はかつて香港国際映画祭の「キン・フー特集」で見たっけ。懐かしいな。私は前世のひとつが香港にいたみたいなので、香港は今も非常な愛着がある。ま、それは置いといて。

武侠映画というのは、過酷な社会環境の中抑圧に立ち向かう個人の闘争という基本的なテーマがあるそうで、本作のテーマもまさにそれ。なんだけど、そんな重いテーマより、本作の見所は現代中国の暗部を見せられることだと思う。

最近の心斎橋筋や、ユニクロや安売りドラッグストアは中国人だらけである。
品物を買い漁るマナーもへったくれもない彼ら。しかし、そんな彼らの不安を想像できるような気が、本作を観て少しした。
国の暗部というのはとても興味深いものだ。私たちはそこからいろんなものを学べるから。
『罪の手ざわり』
5/31(土)より Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
http://www.bitters.co.jp/tumi/

中国語題:天注定 英語タイトル:A Touch Of Sin
監督・脚本:ジャ・ジャンクー(『長江哀歌』『四川のうた』)
撮影:ユー・リクウァイ
製作総指揮:ジャ・ジャンクー、森昌行、任仲倫
プロデューサー:市山尚三
アソシエート・プロデューサー:川城和実、定井勇二、劉時雨、ジャ・ビン
製作:Xstream Pictures、上海電影集団、山西影視集団、バンダイビジュアル、ビターズ・エンド/オフィス北野

出演:チャオ・タオ(『長江哀歌』)、チァン・ウー(『こころの湯』『活きる』)、ワン・バオチャン(『イノセント・ワールド/天下無賊』)、ルオ・ランシャン
中国=日本/129分/2013年
配給:ビターズ・エンド、オフィス北野
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